第288話 セキの帰宅
「それじゃ~最後は……もう大丈夫そうか?」
「……はい! むしろ嬉しくて元気が出てきちゃいました!」
カリオスの声に力強く頷くのはエステルだ。まだ瞳に潤いを残しながらも、カグヤと共に戦えるという興奮が表情にも浮き出ていた。
「おう……! それじゃ~柄のほうは
「それは嫌です! カグヤお姉ちゃんの柄のままがいいです!」
エディットとグレッグが顔を覆い、ルリーテは、どの口が……、と言いたげな驚愕の表情である。トキネやカリオスたちは視線がじょじょに……だが確実に、彼方へと移っていく。
最悪なことにルリーテの澄ました態度とは異なり、絶対に譲らない、と言わんばかりに柄を抱きかかえてうずくまる始末である。
そのどちらも柄のままでは勝手が悪いことは明白である。
「おっちゃ~ん! タイミング悪すぎない――ッ!?」
そこに現れたのはセキだ。
ルリーテの時に戻って来いよ、と言いたげな視線をエディットやグレッグが送っているが、こればかりはセキに非を求めることは難しいだろう。
「おぉ~! セキ! ちょうどよかっ――んっ! んんっ! もう注文は聞き始めてるぜ~!」
「それはあんがと! みんな要望は通りそう?」
そんなセキの疑問を皮切りに、これまでの経緯をグレッグが説明することとなる。
「ははっ! そうやって使いたいって気持ちを出してくれるのは姉さんも絶対喜んでくれてるよ~!」
「そうだよねっ! ほらっ! セキはわたしの味方だよ!」
セキが自陣営と判断するや否や反撃に出るエステル。
「でも、ルリ。握りはちゃんと調整してもらわないとダメだよ?」
「はい。セキ様がおっしゃるのであれば……しっかり調節をして頂きお役に立てるように尽力させていただきます」
すでに話をつけていたとはいえ、あっさりと認めるルリーテの姿になぜかセキへ怒りを覚えてしまう一同。
「――で、エステルのほうなんだけど、差し金型……直角の持ち手をくっつけちゃえば?」
「ああ~なるほどなぁ……
「
セキの提案に頷くカリオス。そんな光景に見る見るうちに瞳を輝かせるエステルは握りしめる柄に目を落とした。「そうすっか~!」とカリオスが同意の声をあげるとエステルも同じく喜びを嚙み締めるように拳を握りしめていた。
「それでルリにはこれ。その
意図を特に汲むことなく、頬を染めながら受け取るルリーテ。
「え……あ……これ指先が隠れますね。ですが、手袋のように手を全て包むわけではないので圧迫感もないですし……これって……?」
何かに気が付いたように顔をあげたルリーテ。セキも頬を緩ませながら視線を交わす。
「そうそう。今たぶん気が付いた通り。姉さんが使ってたんだ。指先が見えないように――って意識で織ってもらったものだから」
ルリーテが目を見開く。
そして手に握りしめたグローブを抱きしめた。同じ種族として生まれた者として同じ悩みを抱えていたことが、手に取るように伝わる。
そして悩みを理解しているからこそ、セキが形見にも近いグローブを自身へ贈ってくれたという気持ちが胸を火照らせる。
専用の魔装作りという探求士の一大イベント。
様々な想いと我儘が入り乱れることとなったが、結果として誰もが納得の行く形で静かに――だが、かつてないほどに熱を帯びた始まりを迎えることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます