第285話 鍛冶屋の帰宅

 セキが出発した翌日。

 グレッグたちの元へ向かおうとするトキネが、前を横切る種影ひとかげを凝視していた。


「おう~! トキネ! いや~なげえ間留守にしちまったが、武器のほうは問題ねえか?」


 そう、鍛冶屋のカリオスである。

 筋肉の鎧に少々の汗を流しつつもハツラツとした挨拶をトキネに投げた。


「――え? セキにぃもう連れて帰ってきたの?」


「ん……? セキが帰って来てんのか?」


 額を覆いながら俯く。村に到着し絶望の表情で嘆くセキの姿が容易に想像できたからであろう。そしてトキネ自身もセキのタイミングの悪さに軽く眩暈を起こしているようだ。

 不幸中の幸いと言えるのは、エステルたちを連れていかなかったという点だろう。


「もぉ……すごいタイミング悪い……セキにぃ帰ってきたけど、逆におじさんたちがいないから昨日迎えに出発しちゃったんだよ~!」


「おぉ……そんなことが……まぁいないって分かりゃすぐに戻ってくるだろ。あいつの心配をするこた~ねえだろうしな。俺たちに用事ってことは前々から言ってたあれか~!」


 セキへの認識と言う名の心配はトキネとカリオス共に共通だ。よって扱いが軽い。

 そしてカリオス自身も思い当たるフシはあるような物言いであった。


「トモエさんは昨日こっちに泊ってたからな~まぁお前が気が付かねえのも仕方あんめえ」


「も~……まぁでもそれならしょうがないけど……それでセキにぃの仲間のひとたちも今この村に来てるの。それで魔装作ってほしいって」


 カリオスは「やっぱりなぁ~」と顎を擦っている。鍛冶屋の血が騒ぎだすと同時にセキの客と言う事で、ただ働きだな、という思考がせめぎ合っているようでもある。


「それならセキを待つこともねえな。ちょっと鍛冶屋に来てもらえるように言ってもらえるか? 俺もセキの客なら用意するもんもあるし、まずは相手を見ておきてえ」


「うんっ! 分かった!」


 カリオスが肩を鳴らしつつ、村外れへと歩いていく。トキネはエステルたちが宿泊するマハの家へ向かった。




「ついに……ついに作ってもらえるんだ!」


「ありがたいお話です……! ですが、セキ様にお手間を取らせる形になってしまうとは……」


「行きましょう行きましょう! 早速お願いしたいです!」


 すでに怪我もほぼ完治したエステルとエディット。そしてルリーテもセキを気に掛けているものの同様に目を輝かせている。


「あれ? グレイさんはどこに?」


「昨日トキネちゃんにボロボロにされたのが効いたみたいで……ポチとかプチを探して相手してもらうって朝ごはん食べずにいっちゃった……」


 エステルの言葉に、やりすぎたかも――と、そんな思考がトキネの脳裏を過ぎっていた。グレッグはなまじセキが面倒を見ていただけに成長という点で見れば一番伸びている。

 ゆえにトキネも熱が入った指導をしてしまったのだ。


「えっと……じゃあ私が探してきます……で、エステルさんたち鍛冶屋分かりますよね? 先に顔出してもらっていいですか?」


「うん! 分かった!」


 トキネの一声で一斉に駆け出す少女たちは、朝食の途中ということも忘れ、そのまま家から飛び出していく。

 そしてトキネはグレッグを探しにいくのかと思いきや、おもむろに椅子に座りルリーテが作った食事を堪能しはじめていた。


「ん……おいし~! グレイさん探しは食べてからにしよっ」

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