第283話 真顔のグレッグ

『チプ~?』


「――とまぁ簡単にいうと、ちょっとおれの魔力がダイフクにも流れてるって話なんだよね」


 目を覚ましたエディットとチピを交え、マハの家で説明を終えたセキ。チピは深く理解はしていないようだが、セキは微笑みと共に頭を撫でている。


「あの……セキさんの魔力がって……それセキさんの魔力でチピを……だからあの時セキさんふらついて……」


「あ~そこは別に気にするところじゃない。ダイフクが形を変えたとはいえ、もう一度一緒にいられるようになったわけだからね」


 この状態を危惧していたため、セキはあえて説明を避けていたことは事実だ。カグツチも状況を察しているようで、セキの帽巾フードの中でおとなしく身を潜めている。

 セキの魔力体が作られた以上、疑問を解くために必要であると判断したために口にしたが、何か責任を負わせたいわけではない。


 本種ほんにんが平気な顔で告げる以上、周りが何かを言えることはない。エステルも、セキらしいなぁ、とほのかに頬を緩ませている。

 だが――


「――ということは、エディの魔道管を引き抜いてセキ様に戻せば万事解決ということですね」


「ひぃっ!」


『チピッ!?』


 ルリーテだけは別である。

 しれっと放つ言葉は怒気を抑えていることが明白であり、事実として青筋が額に浮いていることをこの場の誰もが認識していた。


「え~っとルリ……それはちょっと止めておこうね……」


 エディットとチピが涙を溜めた瞳でセキを見つめる。セキが一言添えればルリーテはそれだけで頬を緩ませるあたりが素直ではある様子だ。


「まぁでも……しばらくはエステルちゃんと一緒に静養しないとねぇ……新しい魔道管に魔力が改めて通った以上、馴染ませないといけないからねぇ……」


 エディットは仕方なしと頷くが、エステルはさりげなく自身も含まれていることに歯を軋ませているようだ。

 降霊と詩をもっと試したいという気持ちが前面に押し出ている。


「これはいよいよ……ウカウカしている場合ではありませんね……」


「ルリさんもカグねえの力を使えるんですよね? 相手するついでに見たいんですけど、使っても大丈夫なものですか?」


 ルリーテが決意の眼差しと共にトキネを見ると、すっかり打ち解けて彼女も乗り気である。その流れで一つの質問を投げかけていた。

 トキネもカグヤに世話になった以上、見ておきたい、というのが本音であろう。


「連発はできませんが、詠むことじたいは大丈夫です……が、あの剣技はわたしからすると測れない技量です。なのでトキネ様に向かってとなると……」


「トキネ。受けるなら降霊してな? ちなみにおれは首を斬られる寸前だったからね」


 セキの言葉でトキネの顔色が明らかに変わる。それはセキの技量が自身の遥か先を歩んでいることを自覚しているが故だ。

 カグヤの力――とは言いつつも、術者がルリーテということもあり認識が甘かったことを痛感しているようでもあった。


「あ……僕も見てみたい……」


 フガクが恐る恐る発言するとトキネの冷たい視線が突き刺さる。「お前も注意すんだぞ~」とのセキの言葉に何度も頷いている様子だ。


「おいおい……みんなやる気に溢れてるじゃねえか……よ~し……セキ今日も続きいいか――ッ?」


 グレッグにもその熱は十分に伝わっている様子だ。するとセキは「もちろん!」と言いながら、窓から顔を出した。


「ポチ。プチ。ちょっとグレイの特訓手伝ってくれよ。あとでルリにお菓子作ってもらえるようにお願いしてやるからさ」


 二匹がやる気を漲らせた咆哮をあげた時、グレッグはすでに真顔でセキの背中を見つめる以外の思考を持っていなかった。

 さらに言えばセキの言葉にルリーテが「セキ様がおっしゃるのであれば今すぐにでも……」と頬を染めながら近づこうとするも、トキネとフガクに連れ出されるという結果を招いていた。


 そしてルリーテの詩を受けることとなったトキネとフガク。

 二種ふたりは仲良く夕食時に、頬と首筋に残った傷跡を披露することとなっていた。

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