第281話 戦士
エステルとグレッグの詩の披露が終わり、
そして気を抜いていない唯一の
うらめしそうにグレッグを見つめつつも、振り向いてマハを見つめる瞳は何かを訴えるように切実でもある。
「ふふっ……エディちゃんの気持ちは分かるけどねぇ……」
「婆ちゃんエディに伝えたいことってあらかた伝えられたの?」
「まぁ……そうだねぇ……」
セキもエディットの気持ちを察しているようではある。しかし額に手を添えながら最後の一歩を躊躇している様子でもあった。
「エディさんがすごい顔して見てるけど、何かあるの?」
そこで覗き込むのはトキネだ。治癒の魔術に関しては理解をしていたが、ルリーテに付いていたこともあり、正確な事情を察するまでには至っていない。
「まぁ……でもエステルちゃんとグレッグちゃんの成長を見たら……我慢するのも難しいわよねぇ……本当はトモちゃんとかが戻ってからがいいと思ったけど……」
マハの声にエディットが表情へ花を咲かせた。
「試したいですっ! どのような詩か理解するためにも!」
そう、エディットが望んでいるのは『
だが、今は治癒に長けたマハがいることもあり自分の可能性に対して貪欲に挑戦したい、という意気込みが溢れ出していた。
「ん~いつかはやらないとだしねぇ……そしたら婆ちゃんはエステルたちと一緒に下がっててよ。それでトキネ。ちょっとフガクも呼んできてくれる?」
「分かったわぁ……セキが言うならしょうがないねぇ……」
「セキ
警戒心を高めるマハ。そしてトキネは少々フガクに対してアタリが強い。勝ち気なトキネと引っ込み思案なフガクとの相性という面もあるだろう。
「ポチ。プチ。おれが前に出るから横槍頼むぞ」
『グルゥ!』
『ヴォウ!』
ルリーテの時のような失態を起こさない、というセキの気持ちが滲み出ている指示である。
エディット自身も己の口で告げてはいるが、セキの対応を見るにつれて不安の色が濃くなっている様子だ。
そこにトキネに連れられたフガクが顔を見せる。
「エディさんまだ詩を持ってたんだ?」
指導していたフガクだが、エディは言いつけを守り、悔しい想いを胸に秘めながらも勢いで使用することを控えていたのだ。だからこその驚きの表情である。
「ああ。ちょっと危険度が分からない。けど、ルリと同じくらいの警戒は必要かな……たぶん」
「ルリさんも強い詩持ってるの? なんの詩?」
「姉さんの力」
ほんわかと緩んだ表情をしていたはずのフガク。だが、セキの回答を聞いた時、その瞳は戦いの中でセキが見せる鋭い眼差しに変わっていた。
トキネの佇まいからも緩みは消え、エディットの背後に位置する歩き方さえも研ぎ澄まされているように見える。
ポチとプチでさえも、砂を掴んでいた爪がさらに深く食い込むように力を入れている始末だ。
「みなさんの殺気で喉に渇きを覚えますね……」
言いながらルリーテはグレッグの背後に身を隠している。エステルもじりじりと滲みよっており、グレッグが無言で絶望の仮面を纏っている様子である。
全員が配置に付くとセキがエディットに向かって頷いた。
「で……では……行きます――ッ! 〈再生の緋炎よ 祝福と成れ〉」
エディットの詩と共に、チピの体から緋色の炎が巻き上がる。
渦巻く炎が身体を包み込むと、ゆっくりとエディットは目を開けた。
一度、全員に合図するようにくるり、と周囲を見渡す。
「それでは……〈
束の間の静寂の後、突き出した右腕に緋色の螺旋を描くように魔道管が浮き出てくる。
さらに導火線のように魔道管から炎の魔力が吹き上がる。
一同が見守る中、導火線が腕を走り抜け手に到達した時、手の平に種火ほどの小さな炎の煌めきが生成される。
そして同時にエディットを中心に炎の竜巻が巻き起こった。眩い輝きを伴う緋色の魔力の渦がうねりをあげる姿を誰もが息を吞んで見守る。
そして――
やがて輝きが収束を見せた時、緋色の魔力が
その姿は――
片手に小太刀を持つセキの姿そのものだった。
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