第280話 斬牙剣獣
「
「形によって呼び名が変わるイメージでいいかもねぇ……まん丸だと『
いじけ気味のグレッグをセキが慰める中で、エステルはマハに言葉の意味の
「
年期を感じさせるエディットの発言にマハも頷いている。
「そうですね~! だからエステルさんの『
トキネも魔術に関しては、マハなどが近くにいることもあり造詣が深い。
どちらかと言えばセキがこの環境において、知識が不足しすぎているということでもあるが。
「
「いやぁ……エステルが羨ましくてつい正面から挑んじまったぜ……」
セキは膝を抱えながら鼻を啜るグレッグの肩を叩き、仮初めの優しさを見せている様子だ。
「詩としての強度は負けてないんだけどね……」
『グル~ォ……!』
『ヴォウ~……!』
セキの言葉に反応しているのはポチとプチだ。
何か尋ねているようでもある。
「テノンが残してくれた詩だからな……攻撃向きなのは分かってるが、あいつの分まで使いこなしてやりてえ……」
「うん……凄まじい詩だからね。グレイ気付いてる?」
セキの問いを咀嚼できないのだろう。
グレッグは含めた意味を見つけられず、首を傾げるばかりだ。
「テノンが
「あ……ああ。獣の姿になっていくからそんな
『グルゥ……ッ!』
『ヴォウ……!』
グレッグの言葉を遮るように、珍しくポチとプチが喉の奥底から唸り声をあげた。威嚇にも見えるその声はまるで『ボクの魔法のほうが凄まじい』とアピールしているようでもあった。
「でさ。おれがグレイに『
「ん? ああ……たしかに右手側の牙は長いから扱いやすいが……」
グレッグ以外はすでに気が付いている。エステルは開いてしまった口を隠すように手を添え、ルリーテの目がゆっくりと見開かれている。
「たぶんおれよりもみんなのほうが知ってるでしょ。上顎から凄まじい牙を生やした魔獣。おれも知ってる魔獣とは言え、やりあったことはないけど」
「――え? そんな魔獣……――嘘……だろ?」
そしてグレッグも脳裏を過ぎった魔獣に自分の思考を疑った。
「――あ、やっぱりそうなんだ? あの『牙』の形を見てそれっぽいなぁ~って思いましたけど。じゃあポチたちと似たようなものですね! 括りも一緒ですし」
トキネは素直にお祝いの言葉を投げるゆとりがあるのは、ある意味慣れているせいでもあるのだろう。
「テノンが血に宿していた魔獣は『
一度見れば忘れることがないほど圧倒的な牙を持つ魔獣である。グレッグたちはもちろん見たこともないが、探求士として全うな知識を持ち合わせていれば、文献で記された姿を容易に想像できるほどに有名でもある。
「ポチ……『
「トキネも勉強不足ねぇ……魔獣の括りはその魔獣が生まれた時に持ち得る力で決まってるのさぁ……
マハの言葉にセキも、なるほど、と手を打つ姿を見せる。だが、そんな会話はすでにグレッグの耳に届いていない。
親友の力に込められた圧倒的な捕食者である魔獣の牙。そのスケールの大きさに身体を震わせながらも、その瞳に宿していたのは怯えではなく、決意の光だった。
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