第271話 ルリーテの場合 後編
翌日。
朝食の準備をするルリーテの元へトキネが訪れていた。
「何かご用でしょうか……? 今は戦いで役に立てない
ふんだんに嫌味を盛り込んだルリーテの言葉を聞いても、トキネは口をつぐみ立ち尽くしたままだ。
「あの……昨日は……ごめんなさい……でした……」
ルリーテの手が止まった。
ちらりと横を向けば、自身の服の裾を掴んで微かに震えるトキネの姿があった。
「あの……それで……私にも……できる料理を教えてほしい……です」
そしてルリーテの時も止まった。
無反応を貫いているが、それは悪意からではない。昨日の態度からこのような流れになるなど、ルリーテの頭の片隅にもないいわば想定外の言葉だったからだ。
何か裏があるのでは、と勘繰りたくなる衝動を抑えるルリーテ。
「昨日の態度からはにわかに信じ難いと言いたくなりますが……」
村では
また、どちらかと言えば料理の腕よりも一匹でも多く魔獣を討伐できる力を優先する者が多いため、こだわる者も極少数なのだ。
街で出される料理の味を知っている者はいるが、それを再現しようとする者もおらず、事実としてこの村に『料理店』などというものも存在しない。
だからこそ昨夜の料理がトキネに与えた衝撃は、ルリーテにとって測れるようなモノではなかったのだ。
「――今はその言葉を素直に受け止めましょう……ですが、一つ条件があります」
肩の力を抜いたルリーテが、微笑みとともに喉を震わせる。
そして、ルリーテからの条件を聞いたトキネが大きく頷くこととなった。
◆◇
村の区画から少し離れた砂地で爆音が響き渡る。
その光景を欠伸交じりに眺めるのはポチとプチだ。
「それじゃー遅いかなぁ……魔力を貯めておくことはできてるから、次はその魔力をもっと早く外へ向けるようにならないと」
「ハッ……ハッ……はい。なるほど……根本的に
トキネの前で膝をつくルリーテ。
すでに肩で息をするほどに乱れている呼吸は魔術を乱発した結果でもあった。
「『
「わ……分かっています。遠慮はいりません。もう一度やりましょう」
ルリーテの出した条件。
料理を教える代わりにトキネに戦いを教わるという交換条件だったのだ。
時間を忘れる。
そんな言葉が似合うほどに
物覚えのいいルリーテにトキネも思わず熱が入る。
そんな時間を共に過ごしていれば、出会い頭のわだかまりなどなかったかのように打ち解けてしまうのは、必然とも言えた。
セキはトキネの気性はある程度把握していたため、当初はトキネの祖母にルリーテを見てもらおうと考えていた。
だが、今日の
「そ……それと……」
「はい。なんでしょう……」
指導時のテンポのいい口調から一転。
トキネらしからぬ言い淀んだ一言にルリーテは振り返った。
「あれだよ……セキ
敵に塩を送る……ではない。
そもそもトキネはセキからの妹扱いに満足しており、兄に変な虫が付くことを嫌うと言う、妹的な立場からあの態度を示していたのだ。
ゆえに、打ち解けたルリーテへ助言の意味も込めた言葉を贈ったはずであったが……
「それは……貴重な意見ですね……ですが、ご安心ください。すぐにトキネ様が
ルリーテはすでにトキネが遠い目をするほどに、根拠のない強固な自信をその胸に宿していた。
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