第268話 エディットの場合 前編

「ふむふむ……やはり上位の詩でもこちらが全ての魔力を負担するのは難しいのですねっ!」


「そうねぇ……怪我の具合にもよるけど、あくまでも癒術士の魔力はサポートって考えがいいかもねぇ……」


 エステルの治療を終えた一同はセキの案内の元、村を散策中である。

 そんな中で、エディットはマハの家に留まっていた。

 それは幾度もの実戦を経たものだけが知り得る『知識と技術ノウハウ』を少しでも吸収したい、という気持ちの表れでもあった。


「その点でいうとエディちゃんの薬草と詩の使い分けはとっても合理的に感じるわぁ……それに暗精種ダークエルフだから戦闘なんて認識もあるけど、そもそも魔力素養が高いだけなんだから、あとは本種ほんにんの自由よねぇ……」


「――あっ……ありがとうございます! もともと癒しラティアとかを手に入れるチャンスがなくてですね……それで薬学を学んでいました! 結局覚えられなかったので、あながち間違えでもなさそうですが……」


 治癒系の詩を好むのが明精種ライトエルフであり、暗精種ダークエルフは攻撃系、魔獣との契約など戦闘面を優先することが一般的な印象イメージだ。

 事実としてマハは癒術士として活動しているが、受精種エルフじたいが総じて魔力に秀でているため、その才能をどこに注ぐかは本種ほんにん次第なのだ。


「あら~……? そうすると詩での治癒は……」


 マハが表情に影を落とす。悪気がなかったとはいえ、資質に関する部分へ安易に踏み込み過ぎたと自覚した様子でもある。


「えっと……精霊さんに力を貸してもらえたおかげで『』の『間詩かんし』を覚えられたのでそれで治癒の詩ができるようになりましたっ!」


 そう言いながら村に来てからずっとエディットの衣嚢ポケットで身を潜めていたチピを取り出した。


『チピィ……』


 この村周辺はポチとプチの魔力が染み付いている。

 その事実が、現状一番パーティで魔力の機微に敏感なチピにとって騒ぐに騒げないほどの威圧感を与えていたようだ。

 そしてエディットも察してはいるものの、すでに害がないことを実感している以上、その点へ配慮する気もなさそうである。


「あらぁ……もしかして半精霊? すごいわぁ~……! セキも今はそうだけど私も滅多に見かけたことなかったんだからぁ~……」


 自身の眼前で拍手をするマハだが、どこまでの驚きなのかがエディットにはいまいち伝わらない。

 パーティで冷静な立場を求められる癒術士や魔術士であるが、


(ここまでのんびりしているのもどうなのでしょうかっ!)


 そんな気持ちが過ぎったことをエディットは悟られないように振る舞っている。


「精選で運よく『不死鳥フェリクス』さんの力を借りることができたので……!」


「まぁ~……私も『不死鳥フェリクス』は初めて見たわぁ……こんなに可愛らしい小鳥さんなんて羨ましいわぁ……」


『チピィ~!』


 顔を綻ばせながら賛辞を贈るものの動じているようには見えない。

 マハが指先でつつくとチピは相手に安心したのか、歓喜の鳴き声をあげている。周りにポチたちがいないことも大きいことは言うまでもないが。


「でも……それならちょっと詩が気になっちゃうわねぇ……長旅で疲れてるだろうけど……治癒の詩を見せてもらってもいいかしら……?」


「はいっ! 何か気が付くことがあれば指摘をいただきたいのでっ! あ……あとセキさんとも相談済なのですが……」


 エディットは『戦士ミヴェルス』の件も含めて、自身の状況を身振り手振りを交えてマハに伝えた。


 伝えることに必死だったエディットは気が付いていなかったのだ。

 『戦士ミヴェルス』と聞いたマハの瞳が鋭く研ぎ澄まされていたことを。

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