第266話 ようこそコト村へ
「到着~!」
セキの背中で力無くうなだれるグレッグの目が見開いた。
「――やっ……やっと到着か! おぶってもらっておいてなんだが、次からはちょっと考えさせてくれ……」
頭を振りながら砂地に下りるグレッグ。
そして目の前に広がっていた光景はお世辞にも綺麗とは言えない、とても年季の入った家屋の数々だった。
木造りや石造りなど統一性が見えず、隙間どころか穴が空いている家も少なくない。
また扉代わりに布をかけているだけの小屋もあり、言葉を選ばないとするならば、ハープやレルヴとは比べることすらおこがましいと言えるだろう。
「驚いた?」
セキが悪戯交じりな笑みを向けていた。
自身にとっては見慣れた景色だが、西側から流れてきた者が村を見た時の感想は概ね心得ているからこその笑みでもあった。
「ん……たしかに驚いた……が、でもこれがお前の故郷なんだろ? そしてこの環境も込みでその強さなんだからむしろオレ自身がぬくぬくと育ちすぎたかもって思っちまうなぁ」
そうは言っても自身がこの環境に生れ落ちた時に生き延びれるかと考えれば、渇いた笑いを振り絞ることで精一杯でもあった。
そこへ村から外れた岩場から巨大な獣の影が現れる。
『グルグルォ~!』
『ヴォウォ~ウ!』
そう、
「お前らよくしれっと顔を出せるな……まぁエステルを婆ちゃんに診せてくれてるんだろ? それがあるから文句は言わないでおいてやるよ……」
セキの言葉に誇らしげに鼻息を飛ばす二匹。
そしてグレッグはもちろんセキのように文句を飛ばせるわけもなく、さりげなくセキの影になるようじりじりと移動をしている様子だ。
「あっ! セキ
「お~助かる。エディも癒術士だから診れるんだけど、婆ちゃんとエディどっちがいいのかおれには判断できないから、一応診てもらいたくてね……」
ポチたちが吠えた声で気が付いたようで、トキネが村の奥から走り寄ってくる。
グレッグの本音で言えばややエステルたちへの対応に不安を抱いていたが、一先ず安堵の吐息を漏らすに至っていた。
「グレッグさんもいらっしゃいですね! 西側から来た
「いやいや――東側地域を甘く見過ぎてたところだ。こうして寝床があるだけでもありがてえさ」
と、グレッグは喉を鳴らしつつも硬直気味である。
なぜなら、グレッグの背後でポチとプチがすんすんと鼻を鳴らし匂いを嗅いでいるからである。
しかも眉間に皺を寄せているため、グレッグは汗が止まらない状態でもある。
「な……なんかオレ臭うか……?」
「――あ、それはグレッグさんの匂いを覚えようとしてるんですよっ!」
「うん。――で、まぁ……うん……男の匂いはこいつらはあんま好きじゃないというか……うん……」
トキネから明かされた答えに胸を撫で下ろすグレッグ。
さらに告げられたセキの言葉で、今度はグレッグが眉間に皺を寄せることとなっていた。
「ハネ爺とかも一緒に帰ってるんだよね?」
「うんっ!
ハネ爺とはトキネと共に鍛冶街へ出向いていた鍛冶一家の長である。
売上がたたないどころか、ブラウ一行そしてドライ、キーマコンビと出費だけがかかったことを嘆いている旨を告げられるが……
「ハハ……ッ! ソウダソウダ……忘れてたわ」
セキの目が見開き若干殺気が漏れているようでもあった。
「おれが散々渡してきた素材の値段からすりゃ~安いもんだって教えてやらねーとだからなぁ……」
「も~私が散々言ってたのにセキ
セキの殺気とは裏腹にトキネはセキの成長を喜んでいる。
苦労がやっと報われたと言わんばかりに、涙を拭く姿から察するに今までは言っても耳を素通りさせていた、ということが容易に窺えた。
「うちを紹介~もいいけど、先にエステルたちの様子を見に行こう。婆ちゃんとこだからあっちの奥のほうだね!」
「おう! お前んとこの婆ちゃんってことならオレとしてはすでにかなり安心してるってのが本音だが」
「うん! じゃあ私はポチたちと周囲の警戒してくるね!」
『グルォ~!』
『ヴォ~ウ!』
ポチにトキネが飛び乗ると二匹の魔獣は先の素早い移動を忘れたように、のんびりと村の周囲へ歩いていく。
その姿を見送るとセキの先導の元、グレッグは村の奥へと足を運ぶこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます