第265話 男の談笑
「あいつら本当に先に行きやがってぇ……!」
「いや~はええはええ! 風になった気分ってなこういうことを言うんだな~!」
セキがグレッグを背負い砂漠地帯を疾走している。
グレッグ自身では考えられないほどに凄まじい速度で駆け抜けているが、ポチとプチの姿は確認できず、それだけでもあの二匹の底知れぬ実力をグレッグは垣間見たように感じていた。
「でもエディも一緒だし、エステルの治療をすぐにやりたいから……今回は許してやるかぁ……」
「ちょっと前の心細さが嘘のような状態になったからなぁ……」
風を切り裂く速度に見合わぬ、とてものんびりとしたペースの会話である。
セキの速度を以ってしても景色が次々に切り替わるわけでもない広大な砂漠ということもこのような会話のペースになってしまう要因を担っているようだ。
「ん~ちょっとおれが不用意すぎたよ……おれだけ村に戻ってポチたち連れて来てから――とかも考えたんだけどさぁ……」
「いや~……おめーそれは……」
気軽な提案とは言えない不安を感じさせる案にグレッグが声を詰まらせる。
セキも薄々自覚があったのか、大きく息を吐いた。
「あ~やっぱり……グレイがそういうならやらなくて正解だったってことだよね? 実はさ~……鍛冶街に村のやつらが行く時にポチとプチも護衛? みたいな感じでついて行ってたんだ」
セキの中で密かに繋ぎ合わせていた出来事である。
「そしたらレルヴ周辺で魔力探知されちゃったみたいでさ……」
(イースが言ってた極獣相当の二匹って絶対ポチとプチだよなぁ……キーマさんたちからトキネたちが急遽村に帰ったって聞いてピンと来たけど……もうイースたち帰っちゃってたからなぁ……)
イースレスの情報とキーマたちから伝えられたトキネの情報、共に持つセキだけが導き出せる答えである。
傍目には街が騒ぎになった気配はなかったことは確認済である。
だが、結果的に空振りとはいえギルド本部が総力をあげた警戒をしていたことをセキもまた知る由もなかった。
「それもあって村のやつらと一緒に急いで東側に帰ってきてたんだよねぇ……」
「おう……それはほとぼりが冷めるまではおとなしくしているのが正解だな……」
セキと違い国や街での魔獣に対する反応はかなり正確だと自負しているグレッグ。
あの二匹が国家領土に現れたとなれば、ギルドや国が動くことが容易に想像できるがゆえの反応だ。
「やっぱそうかぁ……こっち側までは早々来ない、というか放置されてるから一応安心ではあるかな」
「あの風の橋なんざ知らなかったら気が付いても渡る勇気は持てねえからな……むしろギルドや国関係が見つけたら大騒ぎだろうが……」
グレッグにとってポチとプチをその目で確認した今にしてみれば、あの風の橋も腑に落ちるという類になりつつある。
だが、それを知らない者が見ればどうなるか、それもまた想像することは容易かった。
「北の海経由や魔具を使って労力をかけるくらいなら、大断崖の西側までを警戒してるほうが効率もいいだろうからな」
セキの不安を取り払うように己の考えを告げるグレッグ。
事実としてその考えは的を射ている。
そもそもが大断崖という容易に超えることが不可能な谷を挟む以上、そちらまで気に掛けるなど国やギルドの方針にそぐわないものだ。
国や街で生活していればその感覚は当たり前ではあるが、そもそもセキはその感覚が怪しいものではある。
「うん。それならよかった! よし……それじゃそろそろペース上げていこうか!」
「おう! よろしく頼むぜ! ますます防具への希望がでかくなっちまったからな!」
束の間の談笑を終えて、セキは今まで以上に速度をあげた。
「お? ……おぉ? こりゃー……いや――ちょっ……はやす……ぎ――」
砂漠にそびえ立つ巨岩地帯に差し掛かり、セキが立体的な機動力を駆使しはじめた頃、グレッグの意識は深く深く沈んでいくこととなっていた。
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