第264話 セキの弟たち

「いや~冒険はするもんだな……まさか『恐獣』二匹とこうして対面することになるたぁ~なぁ……」


 グレッグは二匹を見ながらしみじみと喉を震わせた。


「あ~……あいつらだとそこに分類されるんだ?」

(う~ん……極獣と言われてた魂喰三獣ケルベロスとか平気でノすんだけどなぁ……)


「ああ。探求士やってても出会えるかどうかってヤツだ……しかも戦うどころかその背に乗れるなんてそれこそ世界でどれだけいるか――だな」


 ポチとプチが生まれた時から一緒に過ごしてきたセキ。

 グレッグがまさに羨望の眼差しで自身の弟を見つめている、という状況に思わず頬を緩めてしまう。


「ははっ。そうやって言ってくれるのはうれしいねっ!」


「おいおい……世辞じゃねえぞ? 例えば、穿角貫獣リケラクスなんてなぁその腹部を一生地につけるこたぁねえ。死ぬときですら立ったままっていう、強さに加えて誇りを兼ね備えた魔獣だ」


 グレッグの説明のままにセキがプチを見る。

 エディットが背中に乗ることに苦戦していることを察したのか、プチは地に大の字にエディットに向かって、乗れ乗れ、と鼻息を荒げている。


 グレッグは黙ってポチに視線を移した。


「……――エフンッ! いや、そうだよ。やっぱ断爪破獣アンドルクスだよ……己の矜持に殉ずるためなら死をも厭わない……強靭な精神に甘えなんつー思考が入り込む隙間はねえ! ――ってな」


 エステルとルリーテが恐る恐る近づくと、怖くないよ、と態度で示すかのように、仰向けになりお腹を見せている。

 その仕草に若干安心を覚えたのか。さらに二種ふたりがお腹を撫でるとような鳴き声をあげる。そして喜びのあまり尻尾を振り回すため砂埃が巻き上がっていた。



「うん……えっと……ごめん……」


 セキはなぜかグレッグに謝罪しなければならない。そんな気持ちが思わず口から素直に吐きだされてしまっているようだ。


 遠くを見据えるような、それでいて虚無すら宿すような瞳。

 言い伝えや伝承が誤りなのか、セキと共に育ったという体験がそうさせているのか。グレッグはしばし思考に耽っていたが、


「――っし! じゃーオレも乗せてもらうとすっかなー!」


 丸ごと放棄することを選択したようだ。

 エステルたちを無事に背に乗せた二匹の元へ浮かれ気味に走り寄っていく。


「今はどっちも二種ふたりずつか! オレは穿角貫獣リケラクスのほうに乗ればいいか? いや――だが、断爪破獣アンドルクスの背も捨てがてえなっ!」


 と、グレッグが近寄っていくと。

 ベッ――と二匹から極大の唾液が発射される。


 そして振り返ることなく疾走していくポチとプチ。


「んと……重ね重ねごめん……」


「いや……疑ってたわけじゃねーんだ。だが信じきれていたかっつーと半信半疑だったのは本音だ」


 要領を得ないグレッグの言葉に耳を傾けるセキ。


「だが……セキお前と一緒に育った。ああ……――今はその言葉を心の底から信用できるぜ……」


「うん……え~と……その信用のされ方はやだなぁ……」


 女の子を嬉々としてその背に乗せ、男を当然のように置き去りにして走り去っていく。

 その凛々しい後ろ姿をセキとグレッグはただただ眺めることしかできなかった。

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