第253話 大断崖の先
「何もなかったねぇ……」
大断崖を超えた東側に降り立ったエステルの一言である。
「何匹か飛翔系の魔獣は見えたが橋の上で戦闘することにならなかったのは助かったぜ……」
東側の崖の
「そこまで不安になる理由がわかりませんね。セキ様が大丈夫とおっしゃる以上、心配など……」
セキを信頼しつつも、やや腰が引けていたルリーテ。砂地に降り立つと同時に強がりを見せているようだ。
「『
『チプ~……』
最悪の事態を想定していたのか、チピを握りしめたままに橋を渡っていたエディット。
橋から落ちればチピがエディットを持ち上げることなど不可能とは承知の上であるが、苦肉の策だとしても縋りつきたい、という心境だったことが察せられた。
「魔獣の処理はおれがやるけど、最悪落ちた場合はエステルに引っ張ってもらおうと思ってたから何もなくてなによりだったかな~」
セキも安堵の吐息を吐き出している。
他の面々とは違い、渡ること事態に不安はなくとも、自分以外に意識を向けていたことで、神経が擦り減っていたということが窺えた。
「そうか! 『
エステルは意識を全て橋へ集中させていたため、セキの言葉で目から鱗を落としている。
「――で、ここからだね。崖に沿って北に行くと大きな岩と
セキが指差す方角に一同が視線を向けるも目視できる距離ではなく砂漠がひたすらに続いている。
地形的な変化も目まぐるしい西との違いをここでも実感していた。
「了解! あと砂漠地帯って……やっぱり『
「そうだね。あと『
彼女たちの砂漠戦闘での経験は、
だが、エステルはレルヴでのクエスト経験、そして持ち前の好奇心で得た知識を導入し砂漠での危険を認識していた。
「――となると、その場所を目指す時は崖の縁のほうがいいのかもしれねえな……砂の絨毯を通らなきゃならねー場合はしょうがないにしても
「レイ様の意見に
若干、砂地から身を引きながら崖の縁を見通す。
現在の彼女たちからすれば、土と砂では安定感の違いも無視できないということでもあるだろう。
「チピの探知が頼りかもですねっ! もう油断できない以上、降霊していてもよいですかね?」
『チプッ!』
「あ、そうだね。降霊中の消耗も無視できないけど、今のチピなら、まず
エディットはセキの言葉を受け降霊詩を詠む。
だが、セキは警戒する視線は鋭いものの自身の降霊を行う気配を見せなかった。
「みんなは崖側で飛翔系の魔獣に注意を。おれは砂漠側を歩くようにするから」
「うん。わかったっ! それじゃーまずは
賛同の声を響かせ東側の地を歩み始めた一同。
そして、大断崖を隔てた地の過酷さをその身をもって知ることとなるとは、この時セキでさえも予想していなかった。
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