第252話 風の橋
「――え……いや……ある……たしかにあるっ!!」
思わず駆け寄ったグレッグが、セキの足元を叩く。
空洞のような渇いた音ではない。まるで砂や土を限界まで詰め込んだ袋を叩いた時のように低い音。そして巨岩のように硬く微動だにしない感触を手に残していた。
エステルたちも続き各々がまず現状を受け入れようと、触感を確かめた。
次いで問うようにセキを見上げると、
「え~っと……これ――おれはもちろんできないし、
種明かしを聞くようにセキの言葉へ意識を傾けている。
「とんでもない魔獣がこの大断崖の底に住んでるんだけど、そいつの風の魔法で作られた橋ってことになるね」
「セキは今までも使ってるみたいな言いぐさだったけど……それは勝手に使って大丈夫なのかな……?」
エステルの不安は魔獣のナワバリ意識に起因している。
この橋を魔獣が架けたというのならば、ナワバリに勝手に侵入したことと同義ではないのか、と。
「おれに限らずうちの村の連中も使ってるからね。触れたら気が付くかもしれないけど、それを気にするような神経質な魔獣じゃない……しかも崖の底周辺でゴロゴロしてるようなやつだし……ここ数年見てないからもうこの周辺にもいないんじゃないかなぁ……」
「お……おぉ……ち、ちなみにオレたち全員で乗っても大丈夫……なのか?」
グレッグはやや腰が引けながらも橋の上に乗っている。
広さとしても十分なことは土をかぶせたことで確認できたが、耐重の記載などあるわけもない。
「あ~それは絶対に大丈夫……! 消えるきっかけが分からないけど、おれたちくらいで折れるようなことは確実にないね。それ以上の荷とかで渡ってることばっかだから」
「え……あのこれってセキさんが来たからその魔獣が架けてくれたわけじゃなくて、ずっとあるってことですよね?」
矢継ぎ早の質問にセキが淀みなく受け答える姿は、安心の根拠に足るものだという共通認識はある。
魔術や魔法、そして魔具の存在を理解していてもこの規模の魔法を目にすること自体が稀なのだ。付け加えるならばこの規模の魔法を見て生きていることが――だ。
「今だと……んと……十二、三年はずっと架かってるんじゃないかな……」
エディットが天を仰ぐようにフラつく。
それは十年以上もこの規模の魔法が維持されるという、桁違いの魔力を想像したゆえの反応だった。
「まぁこの魔力の濃さからして故意に壊さん限り消えんだろうの。壊せるやつがそこらにいるかは別にして――だがの」
力強い援護射撃がカグツチから放たれる。
エステルたちにとって精獣という位置付けであるカグツチの言葉は、これ以上ないと言ってもいいほどの説得力をもっていた。
あくまでも魔力に関して、ではあるが。
「おれも初めて渡る時はめちゃくちゃ慎重だったからね……おれがちょこっと先に行くからみんな後からついて来てくれれば大丈夫! ……だと思う」
セキが軽やかに数歩踏み出すと喉を鳴らすように唾を飲み込んだ面々がお互いに顔を見合わせた。
「よ……よし! みんな……行こう!」
頼もしく響かせたエステルの声とは裏腹に無管理地帯を歩いた時以上に、ゆっくりと彼女たちは橋を踏みしめることとなった。
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