第250話 該当しないルート
そんな経緯から現在。
エステル一行は
砂漠地帯を抜け、見通しの良い草原地帯へ踏み込んだことで、足元への不安も大分解消されているのか、規律のとれた足並みはすでに過去のもの。
普段のクエストよりもややバラけ気味の進行となっていた。
カグツチとチピに至ってはエステルの両肩に陣取り、食事休憩を催促している様子でもあった。
「セキ。疑うわけじゃねえんだが……大断崖を東に渡る場合ってのは、北側の海ルートか中央付近のルートかと思ったんだが、そういうわけでもねえのか?」
グレッグは案内されるがままに背中を追ってきたが、いざ近くなるとどのように崖を超えるかに意識が向かっていた。
現状、自分たちが歩く地域は正確な位置は分からずとも、方角的に北と中央、どちらにも寄らない位置を歩いているという感覚からの質問だ。
「魔具を使うとかも聞いたことがありますね」
ルリーテもグレッグ同様に疑問を抱いていたようだ。聞きかじった知識を口にするも、具体的な方法を知っているわけでもない。
「うん。東に逃げてくる場合はグレイの言った方法が多いよね。で――国とかギルドなんかの大きい組織だとルリの言ってる方法だと思う」
先頭を歩くセキが肩越しに視線を向け、疑問に答えていく。
「で、おれのルートはそのどちらにも該当しない感じかな~」
「焦らしたいわけじゃないんだけど……説明してもたぶん納得してもらえないと思うから……見て触ってもらうのが一番かな~……と」
「信じられねえことばかりだからな……今さら一個増えてもしっかり受け止めるぜ?」
「セキ様の言葉を疑うなどありえないことです……が、そう仰るならば……」
セキを筆頭に世界の亀裂とも言われる大断崖の攻略に意識を向ける一方で、後方集団のエステルたちはと言うと……
「そうだの。好意と言っていいか分からんが、ルリやエディが初見からセキを気に入っていた部分にも通じると思うかの」
「まぁルリは出会い方が最悪だったけど……誤解が解けた途端、あの状態だもんね……」
「はえ~……言われてみると……そうかもですねっ! チピもすっごい懐いてますし……!」
カグツチを筆頭に緊張感が皆無の話題を展開していた。
エステルとエディットは前を行くセキに聞こえないよう絶妙な音量で会話に加わっている。
「うむ。セキ自身が告げた通りあやつは魔力が出んので、『威圧感』がないからの。自然物……『大樹』などを見て心が安らぐような感覚に近いモノを感じるんじゃないかの」
「
「あとは加護精霊さんにも――ですよねっ! まぁ~あたしはそれで納得できますがっ! ルリさんのほうはそんなこと言ったら怒りそうですのでこの話は忘れておきましょうっ!」
後続のエステルたちは結果的に暢気な話に花を咲かせていた。
発端は魔力を発しないセキを改めて観察という目的だ。
次いでセキに感じる安心感は実力だけに支えられたものではなく、威圧感がないということも要因の一つ、という検証まではよかった――のだが、いつのまにか話の方角がズレている様子だ。
「うん……まぁルリはきっかけうんぬんは抜きにしても――だと思う……」
やや半眼気味のエステルの視線が前方を行くルリーテを捉える。
「それにセキさんがレイさんに懐いちゃってるので、心なしか……いえ、嘘です。明らかにレイさんへのアタリが強いですからね……セキさんを盗られたような心境なのでしょうが……」
エディットの鋭い考察もパーティとしてくぐり抜けてきた信頼ゆえに正確だ。
贅沢を言えば他の方面で鋭い考察をしてほしいというところだろうか……。
「うむ。セキは年上との接点はあったがあの強さだからの。一線を引いてしまう者ばかりだったこともあって、新鮮なんだろうの」
スピカ村を振り返りながらカグツチはぼやいた。
テッドたちのような触れあいをセキは好むのだろう、と。セキの実力を知った直後はぎこちない態度があったものの、それもすぐに解消されていたことも含めて、だ。
「そっかぁ……たしかにレイは性格的にそういう点で変な線引きしないしねぇ……」
「兄貴肌というやつですねっ! 面倒見がとても良さそう、というか実際良いですねっ!」
そんな盛り上がりを呼んだ話題でもあったが……。
ついに大断崖の
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