第249話 父の眠る地

 エステルの反応。

 それは他のメンバーとはあまりに違いすぎた。


「エステルは武具とかはあんま興味……――」


 セキが視線を落とす。

 さらに見落としてはいけないものに、まさに今気が付いたように瞳を揺らした。


「……あっ……違う。ごめ――」


「あっ! ううん! セキそうじゃ……そういうつもりはぜんぜん……」


 手をかざしセキの言葉を遮ったエステルだが、他の面々は武具への情熱をひとまず収め視線のみで二種ふたりのやりとりを追うに留まっている。


 そこでセキが自分自身への戒めかのように頭を掻きながら弱弱しく喉を震わせた。


「エステルのお父さん……ブレンさんのお墓を……」


「――えとっ……そうだけど……うん。セキの故郷は東側でしょ? だからまずわたしが力を付けなきゃいけないのは十分わかってたから。だから……」


 エステルの言葉を受け、さらにもう片方の腕が頭へ伸び普段から整っているとは言えない髪を乱雑に掻き、


「いやぁ……違うよぉ……ごめん。完全におれが悪い……『力を付けられるほど生き延びれるかわからない』、これが南大陸バルバトスだと思ってる」


 自身の考えを口にした。

 それは探求士の誰もが頭の片隅に据えている事柄でもあった。


「だから楽じゃないし命の天秤は確実に西側よりも傾く。でも……まず先にその意思を聞いておくべきだった……」


 力を付けてから挑む。

 今はまだ無謀の域を出ない。

 挑む者として万全を期す、という心構えは限りなく正しい。


 だが、わざわいがそれを待ってくれるかは別の問題だ。

 それを己の身で痛感してきたからこその謝罪だった。


「失念していました……エステル様たちにあれほどお世話になったのにわたしは……」


「――あっ……いいの! 二種ふたりともそういう風に捉えないでほしい。実際に東側に行けるほどの力を付けられなかったなら、それはわたし自身に問題があるんだからっ!」


 エステルはあくまでも、自分の力を磨いた上で臨みたい、その気持ちに偽りはないだろう。

 だが、周りがそれに同調するかもまた、別の問題だ。


「まぁ深くは追求しねーが、オレはオレの意思でセキの村に行きてえってのが本音だな。なりふり構えるほどの実力が自分にねえことをこの前の戦いではっきり自覚した。セキの村で武具を頼めるなら命を天秤に掛けるぜ」


北大陸キヌークでの生活に比べればセキさんがいる分、安心すら感じてますよっ。なのであたしも賛成ですっ」


 グレッグとエディットの言葉は本音だ。

 強くなれる機会が平等に訪れること等はっきり言えばない。そう、断言できる以上、二種ふたりはこの好機を遠慮から逃すような真似はしない。


 そしてもう半分は言わずもがなエステルへの配慮である。

 彼女の本音としても墓参りのために仲間の命を危険に晒すという選択は取らない、という考えの元での援護でもあった。


「強さに繋がる可能性を自ら手放すことなど今のわたしの実力では到底考えられません。……もちろんセキ様に負担をお掛けしてしまうことも分かっていますが……」


 口を結びながらルリーテだけでなく、一同の視線がセキへ集中する。


「ううん。こうやって頼ってもらえてうれしいよ? おれだって自分だけで今まで生き残れたわけじゃ……というか、ほぼ助けられて生き残ってたようなもんだからね」


 努めて明るく喉を震わせる。

 そして咳払いを挟み改めて彼女たち視線を向けた。


「正直なところ大断崖の向こう側は今のみんなだときつい。でも……クエストをしに行くわけじゃないからね」


 誰もが真っ直ぐにセキの瞳を見つめ返す。

 それはこの場の誰もが天秤を傾けることを覚悟したということでもあった。


「西側から逃げ延びて東側の村に来るひともいるくらいだし……だから、案内するよ。おれの生まれ故郷に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る