第248話 セキの予想

「んと~おれの予想だけど……たぶんルリとエディの五本目って、詩の影響だと……思う」


「――よ~し! それを覚えたらわたしも四本の仲間入りだぁ! ――ってそんな簡単に増えるならみんな覚えてるよぉっ!」


「あの詩か……? 『騎士エクウェス』と『戦士ミヴェルス』」


 タンッ――と、小気味よい音で木円卓テーブルを叩くエステルの隣。グレッグがセキと同じ結論へたどり着いていた。

 精選よりも以前から見慣れていたエステルと違い、グレッグはあの詩を見た衝撃の余韻がまだ体の内に響き渡っているということだろう。


「あたしの『戦士ミヴェルス』は約束通り……いえ、一度使おうとはしましたが――……詠む前に潰されたのでまだ使ってはいませんけど……やっぱルリさんと似たようなものなんですかね?」


 動種混獣ライカンスロープとの一戦を振り返るエディット。

 ルリーテと同様の事態を懸念した上で、現状は使用を禁じている状態である。


「おそらくは似たものでしょう。そうすれば……精選前の時点で覚えていたわたし、そして後に覚えたエディで辻褄があいますので……」


 先ほどまでの茹った表情はどこへ。

 おすまし顔を携えたルリーテが黒石茶を配っている。


「予想の域を出ないけど……たぶんルリの五本目は……姉さんの魔道管だと思う。形がそっくりだから。――で、エディの五本目もその力の持ち主っぽいかな~と」


 セキはエディットの魔道管に覚えがある。なぜなら、自身の魔道管と形状が酷似しているためだ。

 カグツチの自然魔力ナトラ、そしてセキの肉体魔力アトラを喰らった上で生まれた力である以上、この仮定はかなり真実に近いという確信もあった。


「おぉ……そっか。そのひとの力だから……それならたしかに簡単に増やせるなんてことないよね……」


 エステルが唸るように考え込みつつも、筋として全員が納得という方角へ舵をきっていることが窺えた。


「納得ですっ! そうなるとやはり……少しでも早くあたしの詩も知っておかないといけないですねっ!」


「その通りなんだよねぇ……で、ちょっと予想外だったことがあってね……」


 鼻息を荒げるエディに対してセキが手で顔を覆っている。


「おれが帰ってきてエステルたちが治療してる時にキーマさんたちと会ったんだよね」


 彼女たちは素直に頷き、セキの次の言葉を待っている。


「――で、おれの紹介通りに鍛冶街行ってうちの村のやつと出会えてはいたんだけどさ……」


 この話の区切り方に各々が口を結ぶ。

 それは良くないことを言う前振りだと理解してのことだ。


「ちょっと都合が重なった結果、今は村に戻っちゃっててさぁ……」


 しかめ気味だった一同の表情が緩む。何か事情があったなら仕方がないだろう、とセキとの温度差のある反応を示している。


「本当はこの街の後にエステルたちのとかを見繕ってもらいつつ、エディの詩。初詠みにも居てもらおうかな~って思ってたんだよね」


「――っし! 次はセキの村だな!」


 防具が戦闘の主軸であるグレッグが立ち上がり拳を握りしめた。


「セキ様に頼ってばかりで不甲斐ないですが……今は甘えさせていただきましょう……!」


 ルリーテの瞳に宝石の輝きが宿る。


手甲ガントレット足甲グリーブが欲しかったんですよっ!」


 エディットはすでに明確な注文オーダーを思い描くに至っている始末である。


 魔道管という探求士の生命線の話ではあった。

 だが、それと同じ――下手すればそれ以上に重要な装備の話が出て来た以上、思考が迅速に移り変わってしまうことは仕方がないとも言えるだろう。


 そして何より。


「セキの村……いける……?」


 彼女は武具の話以上に、村への訪問に胸をときめかせていた。


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