第247話 セキの資質 その2

「あの……セキ様……そ……それは敵意を持った視線だけではない、と言う事でしょうか……?」


「おれに向いてればなんでも気が付くし、なんとな~く乗せてる感情も分かるかな。エステルが見える明るい暗いみたいにはっきりとしたもんじゃないけどね」


 呟くように発せられた彼女の言葉。

 セキはなんとなしに受け答えしつつも、吟味することを忘れない。だからこそ隠された味に気が付くことができる。


「あ~……! ルリがいつもおれを目で追ってるのは気が付いてるよ~? 村で妹みたいな子もいるんだけど似たような熱視線でおれのこと見てたからね~」


「つ……ついセキ様の剣技を盗もうと熱い視線を向けすぎたようで……気が付かれていたとは……感服しました……。こ……黒石茶が冷めてしまったので、入れ直してきますね……」


 茹った顔を向けぬよう、足早に台所キッチンへ向かっていく。


(絶対違うと思うなぁ……まぁわたしもずっと見てるけど。それに……セキは女性好きだけど年下のわたしたちに対しては兄妹愛に近いのもあるような……)


(感知以前にセキさんに向けるぱっちりキラキラお目目と、あたしたちに向ける半眼で違いすぎるわけですがっ)


(――つーかルリはあれだけ丸出しなのに気付かれると恥ずかしいのかよ……)


 セキは好意に鈍感なわけではない。すでにいるのだ。恋種こいびとに向けるような感情の垣根を超え、まるで家族のように。


 それは血の繋がった家族を幼き日に亡くした寂しさに起因しているのだろう。だからこそ自分を慕う視線に気が付けば、同じように温もりを以て接する心構えをとっているのだ。ゆえにエステルたちに危害が及べば、神を敵に回すことさえいとわない。


 特に年下の女性に対して顕著に現れるその傾向に、エステルだけが唯一ほんのりとその匂いを嗅ぎ取っている様子でもあった。




「――とまぁこんなんだから言いにくかったのは事実。だから機会を作ってくれてありがたいかな~……」


「できることでどう戦うかを突き詰めていったんだよね……わたしは色々参考にしなきゃだよ……!」


 宣言ともとれるエステルの言葉。そして、他の者も喉を鳴らすことなく覇気が満ちていくことがその瞳に表れていた。


「その意気だね~! ――で、これも同じくそろそろ伝えておかないことなんだけど……」


 息を呑む一同。

 もちろんルリーテもお茶の準備の手を止めていることが窺えた。


「魔力が出せないから、おれ自身を探知することもできないんだよね」


 お手上げと言いたげに両手の平を広げてみせた。


「手で触れた物……武器とかに魔力を通わせることはできるけど……詩じゃないから結局大気中の魔力と判別がつかないんだよね」


 この説明が何を意図したものか。現状では目視が中心の彼女たちには想像イメージがしにくい、ということも考慮した上で話を続けた。


「仲間視点だと不便かな~と。姿が見えない状態だと位置が把握できないわけだし。おれの知る限りだと探知で熱を探れるのもいるけど、おれ自身が魔力操作で外と温度合わせることもできるしね」


 熟練したパーティになるほど仲間に目を向ける数は低くなる傾向がある。

 それは見る必要がなくなる。という単純な理由からきていた。探知の得手不得手はあれど、自然と仲間の位置を魔力で探る精度はあがっていくものなのだ。


「相手……敵視点だと唯一の利点にはなるかもしれない。探知した種数にんずうと合わないし、魔力が感じ取れないから威圧感も皆無だし……」


 悪い事ばかりではないけど。と言いたげに呟くが、やや声色トーンは低めとなっている。

 一種ひとりで行動する分には利点を活用できていたが、パーティで今後どのように作用していくのかセキも手探りなことを否めないのだ。



「あの団長と言われてたやつも……そうか。あれだけの実力があってもセキお前に腕を斬られるまで侮ってたのはそれが理由ってことか……」


「うん。降霊でどれだけ凶悪な精霊の姿だろうと、魔力が感じ取れないならハリボテだと思うのが当たり前だからね。実際そういうハッタリを得意とする精霊とか魔獣もいるみたいだし」


 グレッグは「なるほどなぁ……」と顎をさすりつつ納得気味の様子だ。

 まだ魔力よりも目視を優先するグレイたちはその姿に圧倒されており、事実としてその判断は正しかったとも言えた。稀有な例ではあるが。


「他にも何かあれば――だけど、おれも伝えたいことは伝えられたし……何かあれば聞いてくれてもちろんいいからね? でも……たぶんおれの話よりも気にしといたほうがいい話……あるよね?」


「なんとなく察しますが……っ! セキさんが一本だともう重要性が分からなくなっていますっ」


 感情の起伏に振り回されていたエディットは、ここでも己の心情を素直に告げていた。

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