第246話 セキの資質 その1

「まぁ逆の意味になっちまうが……この事実もさっきと似たようなもんだ。心配するようなこたぁ起こらねー。だがよ……言いたくなかったらいいんだが……――」


 言い淀む気持ちが無意識に出たのか。唇に手を添えたグレッグ。

 視線も泳ぎ気味だが、喉まで込み上げた言葉を飲み込むことはしなかった。


「実際んとこ……本数が少ないデメリットってのは……あるのか?」


「あーるーよー……ちょっと誤魔化し気味だったけどさ……おれは『詩』が詠めないってか覚えられない。ようするに魔力を放出することができないんだよね~……実際のところ、苦手~とかそうじゃないんだ。純粋に『できない』んだ」


 グレッグから神妙な面持ちで向けられた言葉。

 気怠そうな反応をしつつ声色トーンと肩を落としながらも、セキの反応は

 セキの立場からすれば、幼き日に割り切っているものでもあり、むしろやっと伝える機会タイミングと勇気を得ることができた、と安堵しているようにも見えた。



「たしかに最初のクエストの時も、魔術はからっきし、とか苦手とは言ってたけど……」


「思い返せばアドニスさんの時もで詩を詠んでいませんよね……あのひとに下手な詩は効かないからという意味もあったのかと思っていましたが……」


「おぉ……言われてみりゃ~オレが加わってからも魔術使ってなかったな……」


 各々が額に指先を添え、いつかの日々を振り返っている。

 なぜかチピも一緒になって唸っているが、これはお茶請けがなくなった合図だろう。



「魔道管って一本目は体内の魔力循環の役割が大きいんだよね。で、残りの本数に応じて『外』に魔力を出せるようになる。で――それは精霊との繋がりにも関係してくる」


 この際――と言う思いの元、セキが持つ魔道管の知識を披露していく。

 焦って強化できる部位ではないため、あくまでも段階を踏む前提ではあるが。


「本数が多いほどたくさん魔力を外に出せる……強力になるみたいなイメージ?」


「うん。それが近い認識だね。でも体内の魔力濃度をあげる――とかもあるから、本数の多い術者の詩が勝つ! って単純なものでもないってことは重要かも?」


 質問を投げたエステルの意図を見抜いたセキの回答。

 彼女が胸を撫で下ろした姿にセキの目が弧を描く。



「その繋がりでおれは『探知』もできない。探知って自分の魔力を大気に振り撒いてその範囲内のものを察知するでしょ?」


「あれ……? でもセキはこの前もそうだけど、遠くのひとに気が付いてたよね? わたしなんて目を凝らしても見えなかったのに……」


「あれは感知の一種いっしゅだね。おれに向けられた視線のたぐいとか、おれに向かって来る物体を、体内の魔力で感じるってイメージで伝わるかな?」


 できないことを告げるには勇気が必要だ。

 伸び悩んでいるわけではない。伸びるための――進むための道が途絶えていることがはっきりと見えている。今はできない、とは重みが違うのだ。

 だからこそ先の見える道だけに注力することができたことも真実ではあるが。



「勘が鋭い。とはまた違ったイメージだが、なんとなく伝わった気がするぜ……オレが殴ろうとしてお前を見る視線。んで……殴ろうとする拳を両方感じるってわけだろ?」


「そうそう。わざと拳を外す――とかなら、感じるのは視線だけってこと。これはたぶん外に放出する魔力は必要なくて、おれの体内の魔力が視線とか動線に乗せられた相手の魔力とか物体の自然の魔力を感じてるんだろうね」


 すでにセキの強さを探る。という意図を持った質問方向に舵がきられているようだ。

 そして「だから当たらない攻撃とかは感知できない」とも付け加えて説明をしていると若干一名の様子がおかしいことに気が付く。


 それはルリーテだ。


 やや俯き加減の彼女は思い返すように視線を左右へ振っている。

 さらに言えば彼女の頬はほんのり――という言葉では足りないほどに色づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る