第245話 包み隠さず その3

 エステルが魔具を取り、再度測定をしている。

 この行動の意図するところを誰もが理解していた。そう、故障を疑ったゆえの行動だ。


「ははっ。自分でも出そうと思えば出せるから故障じゃない――ってことも分かってるよ」


 セキはどこまでも自然体だ。

 だからこそ、これは紛れもない真実なのだと全員が等しく理解するに至った。


「嘘……でしょ? あ――違う。ごめん。今の言い方はなんかよくなかった……えっと――」


「いや、欠落種ヒュミリは劣勢遺伝だからね。ずっと昔はもっといたんだろうけど、今は下手したら石精種ジュピアと同じくらい珍しいから、その反応は間違ってないよ」


 欠落種ヒュミリ

 生まれつき魔道管の数が少ない種族である。


 体格としても適受種ヒューマンに劣ることが多く寿命も短い。片親が他種族の場合は、他種族の影響を大きく受けるため、純潔の欠落種ヒュミリはもういないとも言われている種族でもあった。


「いや――逆に納得できないんだが……いくら資質の目安ってもよ……」


「ん~……もちろんおれの資質だけじゃとても……だね。死に物狂いで這い上がらないと死ぬ環境で結果的に鍛えられたり……あとは周りに助けられたりとすごい運の要素が多いと思うよ……」


 グレッグは、しれっと言うけどよぉ……と言いたげな視線を向けている。

 それでも探求士として確固たる指標であったものが、今己の中で音を立てて崩れていることは理解していた。



「そうですよ! 一本でセキさんの強さってめちゃくちゃですよ!? ちょっと失礼ですが普通が三本なんです! 街行くひとだってそうで……二本だって滅多にいないほどですよ!?」


「ははっ! だから逆に考えて……一本でも死なずにやってこれれば、これくらいはいける! って考えるのはどお? 他からの助けあってのものとはいえね」


 エディットは、簡単に言いますけどねぇ……と言いたげに目を細めた。

 五本という事実にもりもりと膨らんできたはずの承認欲求。

 ――のはずが、空気が抜けたように萎んでいく感覚を覚えている。



「むしろセキ様であれば魔道管の数など問題にもならないということの証明でしょう」


「えーっとだからおれだけの力じゃなくて……回りの助けあってのことだからね……」


 ルリーテだけは自然体だ。

 知っていたわけではない。セキがどうであれルリーテは真の意味で気にしないのだ。

 セキ個種こじんを見ている以上、欠落種ヒュミリと告げられたところで、自身の眼に映し出していたセキがぼやけることもない、と一切ブレない不動の姿勢スタンスである。

 普段からセキを無条件に称えるルリーテであるが、今は誇らしげでもあった。



「そう……だけど。も~ますますこの前、才能が~なんて喚いてた自分が恥ずかしくなるよぉ……」


「あそこで言うこともできたんだけどねぇ……。でもこの事実を告げずにエステルが前を向いてくれてよかったよ~。安心して進むようにはなってほしくなかったから――ね?」


 悪戯を企む子供さながらにセキは頬を緩ませてみせる。

 エステルは思わず顔を覆いながら、


「何から何まで気を回してくれてありがと……も~いっぺんに重なり過ぎて頭が熱いよぉ……」


 怒涛の情報と真実によって引き起こされた興奮の鎮火に取り掛かろうとしている。


「いや~まぁ聞いておくもんだぁ~! 思い付きの提案だったが案外悪くねえなってのがオレの本音だな」


「なぁに言ってるんですかぁ~……もう起伏が激しすぎて情緒も何もあったもんじゃないですよ~……」


 すでに誰にも視線を向けることのないエディットは、またも木円卓テーブルに突っ伏しながら、弱々しく喉を震わせていた。


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