第244話 包み隠さず その2

「おぉ~……ルリすごいなぁ……」


 腕に光る五本の線。その現実をこの場で直視できているのはセキだけだ。


「……じ――実感というか、違いが本当に分からないので……そ、それにこの一本なのですが……」


「この線だけ、他と違ってちょっと細かくギザギザしてるように見えるね」

(後から……ってあるのか? グレイは種族特有っぽいし……それにこの雷みたいな魔道管って……――)


 ルリーテが指差した一本の魔力管。

 他の四本が直線であることに対して、ノコギリの歯のように刻み目となっていた。



「『歴史に名を残す』って……やつか……? えれーもんを見せてもらったな……だが、ルリ――お前はお前……だろ?」


「そうだよ~! 昨日今日増えたわけじゃないんだし……そんな死にそうな顔じゃなくて自信を持たなきゃだよ!」


 上辺だけの取り繕うような言葉を発するような者はいない。

 羨ましいという気持ちはあれど、それ以上に仲間として誇らしい――そう、二種ふたりは告げているのだ。

 木円卓テーブル上で口を付ける者がいない黒石茶は、すっかり熱を失うほどに一同は夢中に喉を震わせている。

 カグツチとチピはもちろん別……であるが。



「でも、切り出しにくかったって気持ちはおれも分かるよ。今までと違った目で……って思ったら怖くなっちゃうよね」


「まぁ……その心配はオレたちに対しては必要ねーがな」


「な……――何言ってるんですかぁ! 違った目で見るに決まってるじゃないかぁっ! なんなんですか~!」


 ついに顔を上げたエディットが不純物の一切を含まない本音を告げる。


「なんだか胸のつっかえが取れた気がします……自覚もないので、これからこの魔道管に恥じぬよう精進しようと思います……!」


「ん~……エディは裏表なくていっそのこと清々しく感じるなぁ~……先に言っておけば――って思ってるでしょ?」


「エステルさんひとの気持ちを代弁するのはやめてくださ~いっ! あぁぁぁぁ~もぉぉぉ~!」


 真打として見せたかったのだろう。先ほどのエステルを彷彿とさせる姿でエディットは魔具を握りしめた。


「はぁ……あたしはみなさんが思ってる通り四本です。これでパーティの主導権を握るはずだったのですが……」


「その野望は……――うん……諦めるには早い……かも?」


 セキはやや口元を引きつらせている。


「お~なんだなんだ。オレは英雄様のパーティに参加できたってのか?」


 すでに驚く気力もないグレッグはありのままを受け入れた。


「エディ……あなた……」


 ルリーテの瞳は見開かれたままだ。


「もぉ……このパーティやだぁ~……」


 エステルの心は折れかけている。


 エディットの腕に光る魔道管は五本だった。その事実を把握すると同時に叫ぶどころか真顔となる少女。


「――え? な……んで? あの――精選前は四本だったのはたしかなんです……! 精霊と契約すると……――」


「んや……契約しても本数が増えることはないんだよね……むしろ契約することでその魔道管を通して精霊と魔力をやりとりすることになるから、元の本数がものを言う――って感じだね」


 セキは線の一本が微かに螺旋を描くように渦巻いていることに気が付く。注意深く観察して初めて分かる程度の差ではあるが。

 ルリーテと同様、五本のうちの一本だけが他と異なっているように見えるのだ。


「な、なぜかなんて検証は後です! こ……これはあたしの時代が――って、あぁぁぁぁぁ……」


 エディットが一種ひとりで騒ぎだそうとするが、セキの顔を見た途端にまたもや木円卓テーブルに突っ伏していた。


「五本なんだから落ち込むことないでしょ~! も~わたしのほうが泣きたいよ~……で――でもみんなで一緒に頑張るって約束したばっかだからね! もう取り消しできないかんねっ!」


 エステルは心がかなり強くなった様子だ。

 その様子を見たセキが微笑と共に安堵の吐息を吐き出している。


「エステルのその言葉を聞いて安心したよ~……これはもう流れが流れだし――って感じかな?」


「差し支えなけりゃーなんてお上品なこたぁもう言えねえなぁ……おいルリ……六本とかってあるのか……?」


 セキへさりげない催促をした直後。声色トーンを落として確認しているが、どう聞いていても筒抜けである。


「聞いたことはありません。ですが……わたし如きで五本……ですので……『五十』くらいが妥当ではないかと」


 ルリーテはセキの話になるとしばしば理性を失う。グレッグはそっと視線を外すことしかできなかった。


「焦らすのもあれなんで……」


 突っ伏したエディットの手から魔具を受け取ると、躊躇なくセキは測定を始め、同時に一同の視線が一点に集中する。


 その腕に輝く光は『一本』。

 そこで誰もが己の目を疑い、戸惑いの色を隠せずにセキを見た。


「うん……おれは『欠落種ヒュミリ』なんだ」

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