第243話 包み隠さず その1

「面白い仕組みになってんねぇ……資質として『受け皿キャパ』が用意されてて、仮面を付けると使えるようになる感じ……なのかな?」


「産む時に受け継がせたほうが楽なように思えるがの~」


 頬杖を突き、セキは関心するように顎を揺らしている。

 しかし、この異常ともいえる事実に、周囲は騒めきを起こすこともできず、ただただグレッグの腕に目を落とすだけだ。

 唯一カグツチだけは、身も蓋もないような言葉をしれっと呟いているが。


「親から子だけってわけでもないのかもね。ん~……例えば村一番の才能を持つやつに――とか、そういう歴史もあったのかも?」


 時が止まった広間で、悠々と動くはセキとカグツチだけ。

 そして若干一名が徐々に……だが確実に肩を震わせていた。


「なんだよぉ~この流れは~! せっかく仲間だと思ったのにレイの裏切り者ぉ~!」


 そう、エステルである。

 グレッグの手から魔具を掠め取ると中心部に指をかける。さっそくこの場を設けた意味が見いだせる光景でもあった。


「――はい! わたしは『三本』! でも三本は『探求士として素質あり』だからねっ!」


 多少やけくそ気味でもあるがこの行動により、固まりきっていた広間の空気が、自然と流れ始めたことを各々が肌で感じていた。


「そんなエステルさん……自嘲気味に言うことはありませんよ……! あくまでも素質の目安なのですから……っ!」


 エディットが懐の深さを示すような発言で主導権を握りにかかっている。

 この姿を見ただけで一同が、エディットの魔道管の本数にアタリをつけていたことは言うまでもないだろう。


「ふ~……それでは次はあたしでしょうか! それともセキさん……は最後というかやらなくていいですけど!」


 隠し事ができない、というのは時に美徳になるが、今現在でいえば若干エステルの歯軋りがひどい様子でもある。

 しかし、グレッグはそれよりも己の本数、そしてエステルの本数を聞いてなお、俯き加減のルリーテを横目で確認していた。


「あ~すまん。オレが口火を切っちまったが、もちろん強制なんてこたぁねえ。エディも言ってるがあくまで『目安』だからな! 他にも――」


「――あの! つ……次はわたしでもいいでしょうか?」


 息が喉に張り付いたような擦れ声は、聞く者に悲壮感を連想させた。

 自暴気味であったエステルとは違い、まるで追い詰められたような歪んだ瞳を見て、エステルが声をかけようとするが、


「こういう機会でないと言えないと思うので……お願いします」


 ルリーテの決意を止めることは叶わないと悟り、出しかけた手を膝元へ引き寄せていた。


「そんな切羽詰まったような顔をしなくても大丈夫ですよっ! この位置から一緒に歩いていくのですからっ」


 エディットの一言を皮切りにルリーテの手が伸びる。

 ゴクリ――と喉を鳴らす音が響くほどに静寂に包まれた空間。


 そして彼女は魔具を握りその腕に煌めく魔力の管を示した時、一同が声を揃えた。


「……――五本!?」


 さらにその瞬間。

 エディットが額から木円卓テーブルに突っ伏していた。


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