6章 帰郷

第241話 新たなる道

「セキ。セキ! こ、こっちは歩いて大丈夫だよね……?」


。もう少し先行してください。そこではあなたが襲われるとわたしたちまで巻き込まれます」


「ぬあーっ! 二種ふたりとも押さないでください! あたしがはみ出てます!」

『チプゥ……』


「セキ。待ってくれ。オレの……歩幅に合わせてくれ……!」


 ここはランパーブ領から東に位置する地域の砂漠地帯。

 今エステルたちはそんな危険地帯を身を縮めながら進んでいた。


「うん……みんなあの……さ……出発の時の凛々しい表情はどこにやったの……?」


 進行はセキを先頭に配置した布陣である。

 本来であればここはグレッグの位置であるが、グレッグはセキから数十歩後ろを歩いている。

 さらにそこから数歩下がった位置に固まって歩くのは少女三名だ。

 セキが歩いた道からはみ出すことのない規律ある進行を披露している。



「も~失礼だな~! 顔を引き締めてても魔獣は襲って来るんだからねっ今は背伸びするとかじられそうだから、ちゃんとセキに頼ってるんだよっ!」


 あの一件を経て、エステルは自分の弱さも認めた上で気軽に曝け出すようになった節が見られた。

 張り詰めるべき時。緩める時。

 ぎこちないながらも、一種ひとりで抱え込むことをせず、頼る時は思いっきり頼るということを学んでいた。



わたしとしては、セキ様に寄り添っておくのが一番安全ではないかと思っているのですが……レイ様を最後尾においておけば背後も問題ないでしょう」


 セキ以外の扱いが平常運転のルリーテ。

 表情はいつも通りの冷静なすまし顔だが、その喉から発する言葉は辛辣そのものである。

 だが、このような言葉を言えること自体が信頼を積み上げているという側面もあるのだろう。

 向けられている側としてはたまったものではないが……。



「あそこ何か動きませんでしたか! チピちょっと見てきなさい! セキさんもっとゆっくり歩いてくださいー!」


 エステルとルリーテを盾にするべく軽快な動きを見せるエディット。

 己の安全のために懸念の芽を迅速に摘み取る見事な動きである。



「お前ら騒ぎすぎだろーっ! 声や足の振動で察知する魔獣だっているんだからオレみたいにこっそりとだなー……――」


 パーティ内でもっとも体躯に恵まれたグレッグが肩をすぼめ細かい歩幅でセキの後を追っている。

 背後の少女たちの賑やかしを背中に受ける形であり、心細さがないと言えば嘘になる状況でもあった。



ひとが通らない地域だから気を張ってるのは悪くはないと思う……でも、警戒は大断崖付近からで大丈夫だと思うからそれまでに疲れないようにね……」


 セキは肩越しにメンバーを見据えながら声をかけるが、あまり聞いている様子でもない。

 進行速度はとてもゆっくりしたものだが、速度よりも安全を優先した結果でもあった。


 南大陸バルバトスに進出した探求士は、星団や騎士団との繋がりを持たない場合、年単位でランパーブ領に滞在することが当然の流れとなっている。


 それはランパーブ領内と外では魔獣の強度も、会敵頻度も段違いとなる、という至極単純な理由だ。

 それだけでも『国』という共同体が持つ役割は大きいと言える。


 ひとの精神とは無限に気力が湧き出てくるものではない。

 だからこそ安心して体を休める場所が必要不可欠なのだ。


 ――にも関わらず、なぜ彼女たちがこのような場所にいるのか。

 それは、彼女たちの心境の変化と覚悟に起因している。


 その経緯を語るにはグレッグの加入当時まで遡る必要があるだろう。

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