5.1章 閑話 ブラウ奮闘記

第234話 ニモリートへ その1

「も~疲れたわっ! でもこれで次の国までの準備も整えられそうね」


「そうだねっ! 僕も目標分の金額コバルは貯まったからなんとかなりそうだね」


「へえへえ……さすが祝福精霊の契約者様たちは違いますねえ~」


 ここはランパーブ領の最西端に位置する街、『クスクーバ』。

 そこに二種ふたりの陽の気配を醸し出す者と、陰の気配を醸し出す計三名が滞在していた。

 そう、ブラウ一行である。

 宿の一室で話し合いをしている様子ではあるが、ブラウのやさぐれ具合がとても分かりやすい。


「も~うじうじと情けない男ね~それじゃ精霊も寄ってこないわよ~?」


 そして鍛冶街の一件でトキネの助力もあり、『妖艶の美蛇メリュジーヌ』と契約するに至ったクリル。


「ま、まぁまぁ……僕たちも狙って契約できたわけじゃないし、ブラウだってすぐに好機チャンスに恵まれるって……」


 さらに、その後トキネの鍛錬を受け続けたところ、今度はゴルドも精霊に見初められたのだ。

 『茶土の小鬼ブラウニー

 土に属する精霊である。

 もともとゴルドの家系は、『四大の土獣グノム』と契約を

 ゴルドも力を借りていたのだが、ゴルド自身が茶土の小鬼ブラウニーと直接契約を行ったことで、四大の土獣グノムの力はゴルドの家へ還す運びとなっていた。


「アアッーー! ナチュラルな上から目線が憎いぃぃぃーー!!」


 頭を搔きむしりながら絶叫するブラウ。

 だが、このパーティに力の差を気にする輩はいない。

 ただただ理想と現実の差異ギャップにブラウが溺れ死ぬ直前なだけである。


「俺も落ち着き払って『焦ることはないさ。精霊はいつでも見てるんだからなっ』とか言いたい……」


 セキと出会った後の誓い。

 そしてトキネたちに剣を返そうとした、堂々とした姿はすでに過去のもののようだ。


「見られてる結果が今じゃないの」


「クリル~~ッ!!」


 ブラウに対するクリルの扱いは相変わらずのようだ。

 そしてその一言を咎めるべく喉を震わせるゴルドも同様である。


「まぁブラウは勝手に立ち直るでしょうからいいわ。ここからが勝負所なのよ……!」


「うん。――と言うか、クリルすんなり承諾したけどさ……はっきり言って『タンタスバーシュ』より『ゲマルデピオ』が目的でしょ……?」


 『タンタスバーシュ』

 ランパーブ国からさらに西へ進んだ地に存在する国家である。

 国を挙げて騎士団の強化に取り組んでおり、『タンタスバーシュに居を構えるならば星団よりも騎士団だ』と言われるほどでもある。

 誇りをもった誠意ある行動から生まれる信頼は厚く、騎士国家の呼び名に相応しい評判となっていた。


 『ゲマルデピオ』

 タンタスバーシュ国からまたもや西に進んだ南大陸バルバトスの西海岸周辺に存在する国家である。

 先に挙げたタンタスバーシュに対して、こちらは魔術国家と呼ばれている。

 魔術の研究に対して貪欲、かつ国家も研究に対して惜しみなく資源を投入しているため、魔術をかじるものであれば一度は足を運ぶべき国である。

 こちらも国家騎士団の名を冠する部隊を要しているが、実体は剣技よりも魔術中心であり魔術団というほうがしっくりくるという者も多い。


「も~ゴルドったら~……そんなの……当たり前じゃない!!」


「だよねぇ……」


「へえへえ感謝してますよ。なんてったって、ついでとは言え、これから騎士国家に向かって頂けるんですからね~……」


 武器を一新した面々はついに、南大陸バルバトスの入口とも言われる港町ハープ、そしてランパーブからの移動を決意したのだ。


「俺のような契約更新もできない添え物のような存在のために、契約者様が足を運んでいただけるとはうれしーこってすよ……」


 目に涙を溜めながら、やさぐれ通すブラウの姿は哀愁を見事に漂わせていた。


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