第218話 時と場所を選ばない
「お主の足は見てもらわんでよいのかの? 足だけでもなかろうが」
「今は――ね。実際の状況を体感しておきたい。――で、ここなら出入りが全て見える。それに……ギルド本体の
エステルたちが治療に足を運んでいる中、セキは屋根から治療部屋を中心に周囲を見下ろすよう腰を下ろしていた。
「結局おれは探知ができないからなぁ……怪しい動きしてるやつはいりゃー分かるけど……」
イースレスの言葉を疑う余地はない。
よって、セキはエステルたちはもちろんのこと、街中を『警戒』という視点で見下ろした時、どの程度の悪意が蔓延っているのか、この場を以って確認する考えだった。
「思ったより……というかぜんぜんいないような……? ん~……ん?」
漫然と眺めていたセキの焦点が定まる。
しばし見据えた後、おもむろに路地へ飛び降りて行った。
◇◆
「――うん。テノンさんのこともあるしすぐ――ってつもりはぜんぜんない。でも、伝えておきたかったから……」
「忌み嫌われてるオレにとっちゃうれしい話だよ。それに時間をもらえるのもありがてえ。改めてオレ自身の探求士の在り方を……見つめ直してえって……思ったからな」
本日の治療を終えたエステル一同は、クエスト紹介所の酒場に腰を下ろしていた。
そして今しがた、エステルがパーティとしてグレッグに対する気持ちを伝えたところでもある。
改まった話というものは、いささか羞恥を煽る場になり得るが、エステルはグレッグの瞳から目を逸らすことなく、自身の。そしてパーティとしての気持ちを伝えきったのだ。
「……でもちょっと情けなかったな。こういうことはオレから言いてえって気持ちもある。だから……契約期間満了日。その時はオレから言わせてくれ。どちらだとしても――な」
グレッグは飲み干したグラスを小気味よい音と共に、
エステルが真剣であるからこそ、グレッグものらりくらりと交わすような答えを口にすることはない。
即断できない部分があるところも認めた上で、次は己の口から告げる旨をはっきりと声に乗せた。
さらに何か。口に出すことが憚られているのか、物憂げな瞳でグラスを見つめると。
「もちろん……その間にエステルたちがオレに愛想が尽きることだってある。だから……その時ははっきりと伝えてくれ」
己の胸のわだかまりを素直に吐露した。
同情や、もたれかかるためではない。
だからこそ、己自身に向ける評価も冷静な目で判断をしてほしい、と。
「ううん。情けないなんて……そんなことない。わたしだって同じ立場だったら……――それと満了日の約束も了解! お互い……良い所見せなきゃだよ!」
グレッグの覚悟に呼応するように力強く拳を握る。
その姿を眺めるルリーテとエディットも気持ちを表すよう、深く顎を引いた姿を見せていた。
「そんじゃ治療が残り二日。そこからリハビリたぁ言わねえが、慣らしクエストに入るだろうし……まずはその期間中。よろしく頼むぜ!」
「あはっ。こちらこそ!」
胸の内を伝えた以上、互いにややぎこちない笑顔ではある。
だが、それは居心地の悪さに直結するものではないという事実だ。
そして。
互いに歩み寄るための時間を取ったことは、誰の目から見ても間違えではないということも事実ではある。
だが――
互いが歩み寄るその背後。
前向きに歩くからこそ疎かになる真後ろに。
肩を掴める距離まで悪意が近づいていることを、この場の誰もが知る由もなかった。
悪意は時と場所を選ばない。
故に悪意なのだ。
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