第213話 偉大なる精霊
「で、こちらが護持印と呼ぶものです。使い方としては――」
「うん……えっと~……これはなんだろう……――」
イースレスの報告という名の自白が終わると、大きめの布袋を差し出し、中身の説明を始めていた。
パーティで行動する以上、必要となるもの、あれば便利なもの等々がはち切れんばかりに詰まっており、説明を聞いているセキの目がやや泳ぎ気味である。
(すごいわ……頼りない息子を見送る母親のようだわ……)
フィルレイアはくみ上げた両手に顎を乗せ静かにその光景を見守っている。
やがて説明が終わると、充実感を胸に満たすイースレス、疲弊しきったセキの姿があった。
「まさかイースがここまで気に掛けてくれてたとは思わなかったけど……改めてありがとう」
言いながらセキは手を差しだす。
「いえ、当時聞いておりませんでした。あの時……セキ様が旅をしていた理由。それを聞かせて頂き……私たちの都合に貴重な時を割いて頂いたことで、さらに返すことのできない恩であることを痛感いたしましたので」
「そんなこた~ないよ。結果、レヴィアに
イースレスがセキの手を両手で力強く包み込み、揺らぐことのない澄んだ瞳を向けた。
次はこの剣で力となる――そう告げるように。
「それじゃ
「とても有意義な期間を過ごすことができました。次に出会うことを考えるだけで胸が弾みますね。プリフィックに戻れば多少どころではない騒ぎになっているでしょうが……」
プリフィックは大陸の奥地に存在する。
言わば
よって充満した
「うん。フィアもイースもありがとう! フィアの成長には驚いたし、それに……――」
セキはイースレスへ慎ましやかな微笑を浮かべ、それ以上喉を震わせることはなかった。
「それじゃ、
「次はエステル様たちもご一緒してゆるりと語り明かしたいものです。それでは次に会う時までお元気で……!」
『チップゥゥゥゥ……! チピッ!』
「お前はなんで、
イースレスの慈愛溢れる両手に包み込まれ差し出されるチピ。
セキに首根っこを掴まれるも、涙を貯めた瞳は常にイースレスへ向けられていた。
『チプ……チププゥ……』
「『ぼくはやっと出会うべくして真の主様と出会った……』ってお前、エディに聞かれたら焼き鳥にされるぞ……――って、違う……お前はすでに燃えてるのか……」
「ふふっ……
朗らかに笑いかけるその姿にますます想いを募らせるよう体を震わせたチピ。
枯れることを知らない涙なのか、掴んでいるセキの手は十二分に滴っていた。
この場合、エディットが――という問題ではないのだ。
炎を扱う者として、イースレスが突出しているからこそではあるのだが……
セキが
改めて手を振りながら、遠ざかる
その姿が完全に見えなくなるまで、チピはその瞳でイースレスの姿を見つめ続けていた。
(気持ちは分からんでもないけど……イースのこと気に入りすぎだろ……――って、あれっ?)
◇◆
「あなたついに
「ふふっ……ありがたいことです」
「うむ。まぁお主の場合は納得だの」
思わぬ声に
そして背後、ではなくさらに視線を下げた所に佇んでいたのはカグツチであった。
「どうしたのよ……ああ……そういうことね」
「ど……どうされたのですか。カグツチ様」
思い当たるフシを見せるフィルレイアに対し、イースレスは戸惑いの色を出しながら片膝をついた。
「いや……フィアとアロルドには道中で伝えられたからの。そして……
心なしか照れくささを醸し出すカグツチ。
一度視線を落とし、小さな指先でこれまた小さな自身の角をかいている。
やがて意を決したようにイースレスを見つめ、
「お主たちも含め、あの旅を
小さな体を深々と折り、言伝の送り主に寄り添う姿は、その場の誰もが言葉を忘れるに足る衝撃だった。
さらにもう一度、イースレスへその曇りなき瞳を向け、
「ヒノからの……この世で一番偉大なる精霊からの言葉だの」
最後に自身の想いを声に乗せ、カグツチは背を向けて歩き出していた。
――この一言だけを伝えたかった。
そう告げるようにイースレスの反応を見る素振りもなく、セキの元へ向かっていった。
「クフッ……クフフッ!! 愉快じゃの~……! やつが他者の使い――とはの~!」
フィルレイアの胸元で寝静まっていたレヴィアであったが……この状況に堪えきれずに飛び出していた。
「まさかセキ以外の名を覚えるだけに留まらず……
魂の震えに思考の全てを奪われた今のイースレスへ、レヴィアの声は届くこともない。
喉を震わせることさえ忘れ、ただただ偉大なる竜の後ろ姿を見送っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます