第212話 ストーカーの自白 その4
「いやぁ……なんか色々面倒を見てもらってて……ありがとうだけじゃすまされないような……」
想像を遥かに超えたお世話っぷりに頭を下げるセキ。
「いえ……ですが、最後の最後で……」
「それはイースが背負うもんじゃない。
威圧の類を一切感じさせないセキ。
だが……その瞳に宿す幼少から培ってきた殺意という名の死神は、相対する者に生を諦めさせるに足る説得力を持っていた。
「その通りではありますが……。そして……相手は討伐されております。私は討伐直後に姿を捉えた程度ですが、現状のエステル様たちであの結果を導き出したのは驚愕に値するでしょう」
優雅に追跡行為を自白していたイースレスだったが、ここに来て歯抜けの報告となったことに驚愕の色を見せるセキとフィルレイア。
むしろなぜ、追跡が途絶えたのか。そちらに興味を示し始めていた。
「ですが……まだレルヴに滞在されるならば耳に入れておきたいことがあります」
続けざまセキだけでなく、フィルレイアも含めて視線を交わしたイースレス。
比較的のどかであった大気の中に、ほんのひとつまみのスパイスを投じられたように、空気が引き締まった。
「この周辺に恐らく……極獣級の魔獣が少なくとも二体……潜んでいる可能性があります」
目を見開いたフィルレイアに対して、セキの反応は芳しくない。
イースレスはその反応を見るや否や己の言葉を見直していた。
「え~……『
「極獣って枠組みの中で一番上の枠だよね? そういえば
頻繁に話題になるわけではないため、セキは未だにどの魔獣が極獣として分類されるのか覚えていない。
逆に知識に貪欲なエステルであれば、実際の個体を見たことがなくとも、書に描かれた姿と名を頭に叩き込んでいるため、話が進めやすいのだが……。
「つい先日です。エステル様たちも強敵と会敵していましたが……時を同じくして……その二匹の魔力を感知しました」
膝に置いた拳が無意識に握りしめられていた。
その姿に、当時苦渋の決断を迫られたであろうことは、セキとフィルレイアに言わずとも伝わっていた。
そしてこの脅威こそがエステルたちから目を離すに足る理由だったのだ、と。
「放っておくことはできないため、その二匹を優先して追跡をしたのですが……結局は姿を拝むことすら叶わず、消息を絶たれる結果に……空を飛ぶ、または海に潜り込むことが可能な個体なのかもしれません……」
決断の末、成果を得られなかったことも拍車をかけているのだろう。
向き合っていたはずの視線が徐々に下がっていく。
「プリフィック。そしてレルヴの守護隊、ギルド本体には通達済です。次いでジャルーガルにもその旨は伝えましたが、あの国には期待しないほうが良いでしょう。守護――と言うよりも極獣の素材のために動くことはあるかもしれませんが……この地ではジャルーガルの守護精霊も使えない以上、静観する構えでしょう」
「ギルド本体に伝えたなら……十分ね。今この精選後の時期なら……本部に顔を出しているでしょ? 『
フィルレイアが眉を顰めながら話すあたり、ある程度顔見知り、ということが伺える。
――が、当然セキは有名無名問わず、関わりのない
フィルレイアの態度から強者の類であることを察することが精一杯であり、フィルレイアとイースレスへ交互に視線を飛ばすに留まっていた。
「『
「んっ! それで十分よ。何よりイースが伝えてる以上、誤報や冷やかしの
「ええ。幸い周囲の探知範囲を広げて警戒に当たって頂いてますので、街に突如奇襲、などということはないと考えてよろしいかと……」
こうして気軽に頼み込んだはずのお願いの真実が、ほぼ白日の下に晒されることとなった。
イースレスと同じレベルで把握していたチピであったが、自身の言葉を嚙砕いてくれる者がいないことの歯がゆさを痛感すると同時に、主への憤りが芽生え始めているようでもある。
気心の知れた仲であるが故――ということでもあるが。
そしてふと思い出したように、『禍獣級の討伐という快挙も事前に私のほうから紹介所へ伝えておいたので、下手な疑いなどは持たれる心配もないでしょう』
と、しれっと告げた時、セキはエステルたちの重傷の理由、そして更なるイースレスの配慮に頭を抱えることとなった。
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