第210話 ストーカーの自白 その2

『チ~プ~……チププ? ピピッ! チ~……ププ!!』

「『蠍と猿。変な石の爆発の時も……?』って聞いているね。――って何だよそれ……あのちょっと賢い猿のことだよね? んで爆発って吸榴岩だよね? そんな貴重なモン使ってきたの? ――と言うか、そこまで付いてったの……?」


 チピの翻訳ついでと言わんばかりに、次から次へ疑問を投げかけるセキ。

 思考として落とし込む前に喉を震わせていることが一目瞭然であるが、


「言わば門出――ですからね。私も初陣を思い出させて頂きました」

 

 畳みかけるように、しれっと追跡行為を告白したイースレス。

 ――で、あるにも関わらず紳士然とした振る舞いよろしく、顎に手を添える姿が様になっている。

 そんな中、背後でフィルレイアが頭を抱えているが、セキもフォローできる心境ではない。


 そもそもが、『精選管理国がハープとレルヴに滞在する新種しんじん探求士たちが落ち着くまでの間、守護する』という話を聞いた上での頼みだったのだ。

 巡回の隙間に気にかけてくれればいい、というやや楽観的な思考の元、気軽に頼んだセキにも非がある以上、口を噤む他ないという状況である。


 イースレス以外であれば、『迷惑極まりない追跡者ストーカー』と非難を向ける格好の自白である。

 だが、イースレスが行うのであれば、『姫を守る者ナイト』に様変わりする。

 セキの脳裏に、言葉って難しいよぉ……、そんな思いが渦巻いていた。


「吸榴岩の爆発はさすがに危険だったので私の詩で少々爆風を軽減させて頂きました。ちょうど三種さんにんとも気を失っていたので、森の外へ運び傷薬も少々……。その時にチピ様は気が付かれましたが、ゆっくりとご挨拶できかねる状況だったので……」


 過保護にもほどがある。といいたげなフィルレイアであるが、今は深い嘆息を吐くに留めている。


「それと老知猿エルダーエイプが仲間も呼んでいましたので、私も『仲間』として処理をしておきました。セキ様の仲間である以上、私も同列ですので……ふふっ……改めて口にすると少々照れますね」


 少々照れますね――じゃねーから、とはセキは口にしない。

 イースレスの基本的な生き様スタンス

 それは言葉を紡ぐ時も行動する上でも、ブレることのない極太の芯に刻み込んだ己の信念を元にしているのだ。

 その信念を過去の出会いから理解している以上、セキは喉までり上った追求の言葉さえも飲み込むしかなかった。


 だからこそアドニスも目を見張るほどに、セキのイースレスに対する態度はのだ。

 少々視線は遠くなってはいるが、そこはご愛嬌というところであろう。


「ん~まぁなんつーか……エステルたち頑張ってるけど、初陣でそれは運が悪いというか……」


「いえ、セキ様。お言葉ですが……運は……良いのです」


 セキが煙根タバコに火を点けながらボヤくも、イースレスは真逆であると言い切ったのだ。


「誰も居ない状況で同じ目に遭えば、運が悪かった。と言えるでしょう。ですが、幸いにも他にひとは居たのです。この場合は私となりますが……助かる見込みの高い状態で経験を積んだ……これを悪いとは言えません」


 イースレスの言葉に素直に口を開け頷くセキ。

 なぜか頭の上ですっかり馴染んでいるチピが誇らしげな面構えになっているのは気のせいではなかった。



『チピプ~……チピッピ?』

「『街中はいたりいなかったり? 似ている魔力を持つひとが見てた?』って……何から何までありがとう……」


 チピの質問が進めば進むほどセキの視線が落ちていく。

 イースレスの性格であれば、頼まれたことに対して望み以上の成果を出す、ということは容易に想像できる。

 だが、当時これから迎えるであろうかさねとの戦い。

 を想定した場合、イースレスにエステルたちを認識していてほしい、という気持ちがあったための頼みでもあったのだ。


「ええ。そこまで魔力の判別をされていたとは……仰る通りですね。一緒に行動されている時は良いのですが、バラけた場合は私の軍での補佐を呼んでいたので、それぞれに一種ひとりつけさせて頂きました。街中での警戒はやはり……ルリーテ様ですので三者共に外出時は主にルリーテ様に私が付いていました」


「やだ――嘘でしょ? パウラたちまで動員してたの? 禍獣や恐獣と戦うわけじゃないのよ……ま~でもセキへの恩返しでもあるしそれなら何を動員しても文句言えるわけないわね……」


 イースレスの自白に反応するフィルレイアの様子から察するに、そうとうな戦力を投入していたことをセキは空を仰ぎながら受け入れる他なかった。

 ――そこまでのつもりはなかったんだけど……

 この言葉を紡いでもすでに後の祭りである以上、言う意味ももはや失われていた。


「ですが……ルリーテ様を明確に狙ったかは定かではありませんが、相当数そうとうすうのはぐれ星団を処理しましたね。エステル様やエディット様についていたパウラたちもかなり処理したと聞いていますので……」


「そこは判断できないわね~……はぐれ星団だけじゃなく狡鬼幽ゴブリン牙豚幽オークも狙って来るものって聞いてる以上、誰がどんな目的なんて……ねえ……」


 街や季節行事に疎いセキは、二種ふたりの会話に必死にしがみつくことで精一杯の状態である。

 種々ひとびとが多く生活するからこそ発生し得る危険、というものを頭では分かっていたが、フィルレイアが認識するほどに規模の大きい問題だとは想像していなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る