第209話 ストーカーの自白 その1

『チピピッ!! チプ! チププ~!』


「お~……ダイフクどした? うんうん……『みんなが言いたいことを理解してくれない』って? う~ん慣れないと大変だからなぁ……うん。それと息ができないからちょっと落ち着かない? 頭とか肩に乗っていいから……」


 チピが頭の上に陣取ると、涙という雨に打たれズブ濡れの顔を覗かせたセキ。

 チピはフィルレイアへ片翼にて挨拶を告げた後、イースレスへ向き直る。

 すると。


『チピ~……! チプゥ……!』


「おぉ……! ダイフクお前凄いな! イースさ。ダイフクが『いつも見守ってくれてたひと』だってさ」


「一度顔を合わせていますが、状況が状況でしたので、ロクな挨拶もできず申し訳ござませんでした……ですが、気が付かれていたとはさすが不死鳥フェリクスの力を持つチピ様です。やはり……炎の頂点――」


 イースレスはセキの頭巾フードへ視線を送ると咳払いを区切りとし、言葉を選び直した。


「――失礼。炎の皇には私如きの行動は全てお見通し――と言う事ですね。ですが、それは私を認識して頂いたと同じ意味。同じ炎を扱う者としてこの上ない喜びです」


 イースレスは敬意と共に執事さながらの所作で頭を下げる。

 一方、チピはイースレスの不純物の一切を感じない純度を誇る『礼』に背筋を走る快感を覚えたのか、悶え始めている様子だ。

 セキの頭で自由この上なしの振る舞いである。


(すごいわ……チピあの子、カグツチとレヴィアが寝てるとあそこまで自由なのね……――と言うよりセキに懐きすぎじゃない? セキの肉体魔力アトラを喰らったって言ってたし、影響もあるのかしら……? 通じやすい……?)


 フィルレイアはチピの振る舞いに驚愕の眼差しを向けるも、追求を進めるに連れて視線が鋭利に研ぎ澄まされていく。

 だが、セキの上で奔放に転がる姿を眺めるうちに頬が緩んでいた。


 頭を上げたイースレスが微笑を携えチピと視線を交わす。

 するとチピは軽く羽ばたき、イースレスの頭の上へと移動した。


『チピ~……チピ~?』

「『初めて紹介所に行った時も居た?』って聞いているね」


 イースレスの顔を覗き込むように問いかけていたようだ。

 セキがそのままに伝えると、


「あの混雑の中……感服いたしました。まぁ……あの時はエステル様たちを請け負った受付の方の熱意が足りないようでしたので、少々お話をさせて頂いた時でしょう」


「あなたひとの熱意を引き出すの好きよねぇ……」


 フィルレイアが目を細めつつある仕草は、騎士団での事情を思い浮かべているフシが見られた。


「ははっ。いえいえ……相手しだいですよ。あの受付の方から見れば同じ質問を幾度も繰り返し聞いて疲れてしまう気持ちはよく分かります。仕事なんだからしょうがないと言ってしまえばそれまで――」


 イースレスは当時を思い出すように一度、呼吸を溜めた。

 頭の上に乗られることに慣れていないのか、チピに説明しようとすると、つい頭ごと上に向ける仕草がちらほらと見られた。


「ですが……相手にとっては『初めて』の経験なのです。明確な道を示すことは難題ですが……ほんの少し寄り添い、共に悩むことはできる――そう伝えたところ、翌日から見違えるような熱意を見せて……いえ、きっと元々持ち合わせていたのでしょう。素敵な提案を振舞う姿。とても見事でした……」


 当時を振り返っていることが見る者にまざまざと伝わるほど、イースレスは胸に手を当て晴天の空を見上げている。

 他の者であれば遠慮なく指摘を入れるであろう行動だが、フィルレイアはおろか、セキでさえもこの仕草に文句をいうことはできなかった。

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