第194話 活力漲る決意

「なるほど……状況は把握した!! この前少し話も聞いてたしなっ!」


「あははっ。エステルたちはいつも誰かのために一生懸命さね~。そして……私たちもそれに助けられて今ここに居るさね……」


 五種ごにんが互いに背中を預け円の形で迎撃態勢を取りながら、エステルが急ぎ足の状況を説明を終えた所である。


「うん……次から次へと集まってきて……これじゃ奥へ進んでも振り切れないし――」


 エステルがややもどかし気に歯を軋ませた。


「ですが……この五種ごにんなら――ッ!!」


 ルリーテは状況の好転に光を見出し。


「これなら殲滅することも可能ではないかとっ!!」


 エディットも好転の波に自身の気持ちを乗せた。

 しかし。


「いや――すぐにでも向かいたいんだろ? だから……――」


「ここは私たちが請け負うさねッ!!」


 ドライが告げる直前。キーマが待ち切れず喉を震わせた。


「で、でも……二種ふたりだけじゃ――」


 エステルが歯切れ悪く反応するも、ドライとキーマが流し目と共に口角を上げた。


「精選の恩をこんなに早く返せるとは思ってなかったけどな……――ッ!! 出番だぞ……『三原の水ウンディーネ』!!」


「そのひとがどんな探求士か分からないけど、エステルたちが信用しているなら、すぐにでも駆けつけてあげるのがきっと正解。だから……――その手伝いをさせてほしいさね!! 待たせたね~『三原の火サラマンダー』!!」


「――え!?」


 二種ふたりの覚悟を乗せた言葉にエステルたちは思わず振り向いた。


 精選で契約したのはキーマだけだったはず――

 そんな三者の驚愕の声は二種ふたりの詩に搔き消された。


「――〈始まりの水を満たせ〉」


「……〈始まりの火を灯せ〉」


 両者の詠んだ降霊詩と共に魔力のうねりが二種ふたりを包み込む。

 精霊本体が顕現するほどの魔力ではない。

 だが、目視ができずとも明らかに二種ふたりの魔力が跳ね上がったことを彼女たちは感じ取った。


不死鳥チピに見劣りするのは許してほしいけどね! これから『ウンディーネこいつ』と共に成り上がっていって見せるさ!」


三種さんにんとも!! ドライがこれから猿たちの注意を引き付ける! だから奥へ突き進むんだ! 追いかけるやつは……私が仕留めるさね――ッ!!」


 表情に見合った活力漲る決意。

 両手長槍ロングスピアを背負い木々を見上げるドライ。

 片手長剣ロングソードと共に半身に構えるキーマ。

 落ち着いて相手の出方を伺う姿さえも様になっていた。


「――わ……分かった! でも二種ふたりとも無茶だけはしないで!」


「お心遣いに感謝いたします……!」


「はいっ! ここはお任せします!」


 ドライたちに圧倒されたと言えば言い過ぎかもしれない。

 だが、彼女たちが迷いなく動き出すほどに説得力を醸し出していた。

 南大陸バルバトスの厳しくも偉大な地で成長していたのはエステルたちだけではないのだ。


「ああ。エステルたちの姿が見えなくなったら素直に退散するさ! だから安心して突き進め! 〈照射の中位水魔術ラディウス・ミルライザ〉ーッ!」


「そっちこそあまりに無茶なことは控えてほしいさね! 〈中位火魔術ヒルライザ〉!!」


 峡谷地帯へ一斉に駆け出す彼女たちの背中へ向けられた言葉。

 肩越しに振り返ったエステルたちもまた迷いなき瞳と頷きを以って、ドライたちへ答えていった。



◇◆

「よし……抜けたっ!」


 エステルたちは走り詰め、光さえも届かぬ森から飛び出した。

 眼前に広がる峡谷地帯。

 剥き出しの岩肌は苔に包まれている部分も少なくはない。

 崖も滑らかな部分よりも、尖った岩や隙間から生えた生命力溢れる木々が顔を覗かせていた。

 高低差も激しく死角となる場所も多々見受けられたため、探索及び奇襲により警戒を要することを彼女たちは感じ取っていた。


「探索とはいえバラバラになるのは得策ではありません……非効率ですが――」


「――ぬがっ! も~! チピうるさ~い!」


 ルリーテの隣のエディットが頭を抑えつつ降霊を解除した。

 すると、緋色の魔力がうねりチピの体を作り出した。


『チピィィィィッ!! チピピ!』


 チピがエディットの頭上でおおよそ東の方角を指し騒ぎ立てる。


「もしかしてダイフク様……そっちにグレッグ様が……?」


 ルリーテが呟くとチピは体ごと首を傾げた。

 つぶらな瞳から判断するにアテが外れたと三種さんにんは実感した。


『チピ~……チププッ!!』


 さらに次は足元の崖の奥を不安気な眼差しで見つめ始めたが。


「ダイフク。この前まで一緒にクエストしてた男のひと覚えてるでしょ? かなり懐いてたし……」


 すると。

 エステルと向き合っていたチピが翼を広げ飛び立つ。

 足元の崖の中腹へ滑空していくと、岩壁の割れ目の中へと姿を消していった。


「……――行ってみよう!」

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