第188話 休息日のエステル その14

「行きも帰りも頼りっぱなしで……すいません。と言うか……ありがとうございました……」


 レルヴの南門。

 まばらに探求士が出入りする中、エステルとイースレスは向き合っていた。


「とんでもない。このような経験は滅多にありませんからね。そして……とても素敵な結末……と言ってよいかは分かりませんが、エステル様が納得した結果であることは喜ばしい限りです」


 そう言いながら屈託のない笑みを向けた。


「ですが……書庫まで送らないで良いのですか?」


「はいっ。書庫に行く前にちょっとやっておきたいことができたので! 色々気を回して頂いてありがとうございました!」


 エステルもまた星の如き笑顔を向け、手を差しだした。

 その姿に口角を上げつつイースレスも答え、固い握手を交わす。


「それでは……これからの冒険に精霊の祝福があらんことを……」


「――はいっ! イースレスさんも見回りの任務、サボらせてしまってすみません……任務頑張ってください!」


 互いに頷き手を離す。

 そしてエステルは受け取った荷物を勢いよく背負うと街の中へ向かって歩み出し、振り返りながら手を振る。

 そんな姿をイースレスも軽く平手を振り見守っていた。


「セキ様も良い仲間に恵まれたようだ。――さて……」


 イースレスはユエリとの対峙から降霊を解くと、エステルへ続き街の雑踏の中へと姿を消していった。



◇◆

「ぬぐぅ……やっぱり教えてもらえなかった……」


 クエスト紹介所に足を運んだエステル。


(ん~どっちにしろ三日後には会うわけだし……そこで伝えられればいいかな~……)


 目的はグレッグの宿の情報。

 だが、その試みはエディットの時と同様に笑顔で断られるという結果であった。


 クエスト帰りの探求士の流れに逆らいつつ、出口を目指すエステル。

 すると、前方から見慣れた探求士が紹介所へ入ってくる姿を捉えた。


「――えっ!? えっ! あっ! ドライさん! キーマさん!」


 ひと混みの中、必死に手を上げて存在を示すエステル。

 様々な喧騒が飛び交う中、自身の名を呼ばれた二種ふたりは入口で足を止め、周りを見渡し始めた。


「こっち~っ!」


 手を挙げながらひと混みをかき分けていく。

 すると自身の元へ向かうひと影を捉えたドライたちも大きく口を開き、


「――お……おぉ~! エステル!」


二種ふたりともハープからこっちに来たんだっ!」


 ハープで別れて以来の再会は、互いを見ただけでこの大陸で一回りも二回りも成長していることが一目で伝わるほどに逞しく感じられた。


「や~セキから教えてもらった鍛冶街に行ってるんだけど、そこでもろもろ不足物資が出ちゃってねぇ~……それで買い物ついでにレルヴこっちを覗いたって感じさね」


 ひとの集中する出入口から離れるように歩くキーマ。

 エステルとドライも続きクエスト紹介所前の広場へと場所を移す。


「あはっ。そうだったんだ! セキが何か二種ふたりに伝えたいことあるって言ってたけどそういうことだったんだね!」


 広場で三種さんにんが円となり芝の上へ腰を下ろした。


 そこでエステルは、まじまじと二種ふたりの装備を吟味するような眼差しを向けている。

 二者共に前衛ということもあり、精選時は軽鎧ライトアーマーを着ていたことをよく覚えていた。

 現状も軽鎧ライトアーマーという括りでは一緒である。

 だが、ドライは青みがかった鎧。キーマは赤みがかった鎧になっている。

 また、全身を防護するよりも動きやすさが優先されており、所々インナーが見えていた。


「なんだか二種ふたりとも歴戦の探求士みたいな装備に……」


 思わず本音を漏らすエステル。


「ははっ。これもセキに感謝しなきゃってことさね」


 キーマは可愛げを醸し出す八重歯を覗かせ、照れくさそうに前髪を指先ですいている。

 よくよく見ると左目側の前髪を赤い髪飾りで一房まとめており、良い意味で印象が変わっていた。


「まだエステルたちはレルヴこっち中心でクエストを? 近いうちに鍛冶街に顔を出したいってセキは言ってたけど……」


「それがちょっとセキはえっとぉ……――」


 エステルはドライの疑問にこめかみを掻きながら、これまでの経緯を伝えた。


「は~……なるほど……セキとアドニスでってすごい組み合わせだなぁ……できれば俺もお礼を伝えたかったけどまた次の機会になりそうだなぁ……」


「それならきっと戻ってきたらエステルたちも案内されると思うさね。何が待ってるかはセキから直接聞くほうが楽しいだろうしね」


 ドライとキーマはエステルの話を聞いてなお、不安の色を顔に浮かべることはない。

 それほどまでの信頼を二種ふたりに寄せていることが、よくよく伝わってくる一幕である。


「あはっ。分かった! 二種ふたりの鎧もそうだし、キーマさんの可愛い髪飾りとかもその『お楽しみ』のおかげ?」


「――え? あははっ。この髪飾りは守護石代わりさね。手頃な守護石を持っていないって言ったら、私の精霊サラマンダーに合わせて髪飾りも作ってくれたさね~」


 嬉しそうに指先で髪飾りを撫でる。


「じゃあそのお楽しみはともかくとして、南大陸バルバトスに来てからの話もほどよく積もってるだろうし……ちょっとメシ屋にいくか!」


「おっ! ドライ! いい案だね! 反対する理由がないさね~」


「あはっ――はいっ! ぜひぜひ行きましょう!」


 思いがけぬ再会に心躍らせたのはエステルだけではなかった。

 広場で手ぶらのままに語り尽くすにはあまりにも様々な出来事を経験したのだ。

 三種さんにんは勢いよく立ち上がると、客引きの声が響く通りを目指し歩き始めていた。

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