第168話 死神と呼ばれた男
ぐちり――と肉の裂ける音が次々と発せられていた。
遠巻きにエステルたちを囲む
「学習してるってことかよ……」
グレッグが歯を軋ませ、鋭い視線を突き刺す。
そんな視線を投げられてなお、我関せず――と不敵な笑みを浮かべているかのように不愉快な声を漏らしている。
「生やしてすぐに順応できるとは思えません。まずはあの目を潰した個体に集中し撃破が良いのではないでしょうか?」
ルリーテと相対する片目をエディットに抉られた個体を見据える。
さらに言えば、
「――うん。ルリの言う通りこれだけ距離をとって――って……――えっ!?」
同意を示したエステル……だが、先手を打ったのは蟷螂たちであった。
「――全個体が振りかぶってますよ! これ――さっきの竜巻なんじゃ!?」
エディットの叫びに他の者が反応を示すよりも早く、四匹の個体が等しく鎌を振るう。
直後に発生する轟音を奏でる竜巻。
「ざ――っけんなッ! こいつら……パーティさながらの連携とでも言いてえのか!」
「これ……四方から引っ張られて……――動けない」
グレッグの怒号。
エステルの気付き。
そんな驚愕に浸る時間が許されるはずもなく。
うねりと共に土を巻き上げる竜巻は、無慈悲に四方から迫り、エステルたちを圧し潰した。
「ぐぎっ――!!」
「――ぐぅぅぅぅぅっ!!!」
巻き上げられ囲みの外へと弾き飛ばされるエステルとルリーテ。
武器と両腕を押し出しはしたものの、回転により弾かれ荒れ狂う風の刃が胸元に直撃したのだ。
獣の爪よりも細かい幾多の傷跡が竜巻の破壊力を物語っている。
「ぐおおぁぁッ!!」
「いっだぁぁぁ――」
自慢の盾と比較的重量のある鎧により傷を負うも踏みとどまったグレッグ。
簡単に弾き飛ばされ、グレッグの足元に転がっていたからこそ、比較的傷が浅いエディット。
「そんな……――
矢継ぎ早に飛んだエステルの怒号にも似た叫びに、グレッグとエディットが周囲に目を向けた時だった。
四対二。
とても単純な計算である。
一定の距離を置いていた蟷螂たちは、囲った獲物が二体になったことを確認するや否や躊躇なく、襲い掛かってきたのだ。
「グレッグさん! お互いに背中を!! そして――って、ちょっと!?」
鎌を振り上げた蟷螂が目前に迫った時。
迎撃の構えを見せたエディットの体が浮き上がる。
「エステル!! 受け取れェーーー!! ぐおっ!!」
グレッグがエディットの腕を掴みあげ、全力でエステルたちへエディットを放り投げたのだ。
――直後、二体の鎌を受けるも無防備な背中へ鎌を突き立てられ態勢を崩すグレッグ。
「こちらにも背中を向けている自覚を持ったほうがいいでしょう――〈
間髪いれずに地を蹴ったルリーテがお返しとばかりに風を小太刀に纏わせる。
さらにエステルとエディットも四肢を地につけていた状態から獣が如く、跳ねると共に疾走を始めた。
だが、その動きを読んでいたかのように、グレッグの背後を取っていたボス格の個体がルリーテたちへ向かった再度竜巻を放っていたのだ。
「――なっ!?」
突進した彼女たちは、竜巻が起こす風に自ら体を捧げるかのように巻き込まれていく。
「うぐぅぅぅぅ――ッ!!!」
「こ――のッ!! きゃあぁっ!!!」
「痛あぁあぁッ!!」
体中に刻まれる風の軌跡は見る見るうちに彼女たちの体を朱色に染め上げ。
最後にはその身を弾き飛ばす。
ボロ布のように力なく宙を舞う少女たち。
「お前ら――ッ!!」
鎌の斬撃をその身で受けながらグレッグが叫ぶ。
それは……
死神と呼ばれた男に最も不釣り合いな言葉だった。
「ここはオレが引き付ける!! だから……――逃げろッ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます