第161話 単独の理由

「攻守のバランスがとり易かった……! ちょっと数は多かったけど結果的にクエスト分も十二分に確保できたからよかったかも?」


「前で攻撃を受け止める、と言うのは言葉以上に重要と理解しました。隊列が崩れることもないので主導権も握りやすいですし」


 グレッグを加えた初のクエストは、同行で得た知識、前衛を加えたことによるパーティの安定化により滞りなく消化。

 一同を包む空気も軽く、帰路につきながらの会話にも弾みがついていた。


「ああ。そういってもらえるとやりきった感がヒシヒシと感じられるぜ! だがなぁ……喜び勇んだはいいが、古代詩エンチェントと神話級の精霊には正直度肝を抜かれたっつーのが本音だな……」


『チピッ! チ~プ~!』


 グレッグの本音にチピが羽を胸に当て、任せろ、と言わんばかりの誇らしげな表情を見せている。

 誰も口にすることはないが、この頼りない小鳥が不死鳥フェリクスと見抜くのは至難の業である。


「おっ? 堂々とした立ち姿だな~! てっきりこの辺で見かけないだけの珍しい鳥だとばかり思ってたからなぁ~……」


「半精霊化――いわゆる見える状態というのはやはり珍しいのですね~! ですが、変に勘繰られるよりは珍しい鳥~で完結してもらっていたほうがいざこざもなさそうなので、良いかもですがっ」


 チピの羽ばたきアクションに反応するグレッグ。


 そしてエディットも相棒としての本音をちらつかせる。

 探求士である以上、強大な力を示したい、という気持ちは少なからずある。

 しかし、それ以上に危険に巻き込まれることを危惧している以上、必要以上の強調アピールは不要と判断している節が見られた。


「もっと実力を身に着けていけば、逆にその力を見せつけることで不要な争いなどを回避できることもあるかもしれませんが……まぁわたしたちには少々気の早い話になってしまいますね」


「そうだね~。きっとそれが探求士のランクの概念にも通じるっぽいよね~……後はまだまだ遠いけど、二つ名だって受領してるならすごい牽制になりそうだし……」


 ルリーテも先の話、としながらも己の持つ古代詩エンチェントの示し方を考えている様子だ。

 奥の手として隠し通しておくことも手段の一つであるが、あえて示すことにより相手を制すという考えは、セキ以外に対してやや好戦的なルリーテの気性をよく表している。


「は~……南大陸バルバトスに出て来たばかりだってのに、お前ら色々考えてるんだなぁ……オレが出て来たばかりの時は、名をあげてやるぜ! くらいしか頭になかったからなぁ~」


「あはっ。わたしたちだって行く行くは名をあげていきたいと思ってるよ~! それとグレッグさんは南大陸こっち出身じゃなくて元々は他の大陸から?」


 エステルたちの考えに詠嘆を示すように深く息をはくグレッグ。


「ああ。オレはもともと西大陸ニュルベグの出身だからな! 前回の精選を通ってなんとか南大陸バルバトスデビューってわけよ!」


「お~! そういうことだったんだ! でも前回だと五、六年前だよね? それからずっと単独ソロで戦い続けてたの……?」


 グレッグの返事に図らずも疑惑へと片足を突っ込み形となったエステル。

 会話の流れとしてはとても自然であったが、それゆえにグレッグの瞳が揺れたことがとても印象に残った。


「――あ……いや、そういうわけじゃねーな。あ~っと……『幻域種ティティス』って知ってるか? 最近だと獣種じゅうじんとか魔種まじんって呼ぶほうが一般的かもしれねーが……」


「お~! 知ってますよ~! あたしも故郷で何名か一緒に暮らしていたので! 業鬼種オグルとかのように特性を持ってて、獣の特性とかそういう身体的特徴を持っている種族の方々ですよねっ」


わたしは直接出会ったことはありませんが、もともと幻域に住まう種族の方々のことですよね……? 生来、精霊の力を己の血に宿しているので契約も不要というような……?」


 先ほどのまでの歯切れの良さが若干鈍っているが、エディットとルリーテが気にする様子はない。

 あくまでも観察に長けたエステルの瞳にそう映っているに過ぎない。


 グレッグがばつが悪そうに頭をひとしきり掻くと、その幾度かの発音を伴わない口だけを動かすような仕草の後。

 喉を震わせることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る