第157話 噂の男

「いやぁ~……今日はほんっと助かったぜ!」


「いえ~! こちらこそ丁寧な説明してもらって助かりましたよ!」


 レルヴの街、クエストからの帰路につくエステル一行の姿があった。

 今回の同行者『グレッグ』の言葉にエステルも頭を下げて返事をしている。


単独ソロクエストで稼ぐことはできるんだが、この時期ならギルドからの謝礼が出る分、得なんでな~。ソロで出ているうちに同行の申請がきたら、と思うと待機しちまうんだが、すでに手持ちが尽きて宿を追い出される寸前だったからな~!」


「おぉ……! ぎりぎり乗り越えたということですねっ!」


 そうなる前に単独ソロに出たほうが良かったんじゃ……

 と、エステルとルリーテが唇へ指の腹を押し当てつつ首を傾げているが、エディットは会話に乗っかっている様子である。


「ああ! これでまたしばらくは持ちそうだ! それじゃーオレはあっちの宿だからここでお別れだ! 今はフリーだから同行に限らず臨時パーティでも呼んでくれると助かるぜ!」


 手を上げながら差し掛かった道を曲がって行くグレッグ。


「はい! ありがとうございました!」


 エステルが答え、三種さんにん揃って後ろ姿へ手を振る。

 グレッグの姿が見えなくなったことを確認すると、彼女たちは顔を突き合わせた。


「ん~……わたしとしては何も問題なかった……と思う」


わたしも同感です。むしろ意思疎通コミュニケーション能力が高いので、むしろこのような初見の同行に向いているとさえ感じました」


「あたしも他の方となんら違いを感じませんでしたねっ。やはり噂は噂ということではないでしょうかっ?」

『チププッ!』


 エステルたちがこのように解散直後でありながら、観察結果を共有しているのは理由わけがあった。



◇◆

「立場上、私たちが申請を断ることはできませんが……ん~……」


 休息日の夜の一幕である。

 エディットからのリクエストを受け、翌日の同行者の申請にグレッグの名前を出した際、受付の受精種エルフの男がやや神妙な面持ちを見せたのである。


「何か気掛かりなことがあるんですか……?」


 続く言葉を吟味する男へエステルが身を乗り出しながら問いかけた。


「紹介所側の立場として噂に踊らされるわけにはいかないのですが……」


 男は前置きとばかりに咳払いを挟む。


「グレッグさんは以前組んだ臨時パーティが壊滅しているのです」


 私情を取り払い、ありのままの事実だけを述べた。

 それをどう咀嚼するかはエステルあなたたち次第と言わんばかりに。


「それ自体は珍しいことではありません。ですが……彼はその時、無傷で生還しています」


 受付の男は真っすぐ見据えたエステルから目を逸らすことはない。


「報告じたいも彼が行っており、その際に自身は奇襲で気を失っていて正確な事情を把握していない、とのことです。そして補足するなら、その当時のパーティメンバーは一種ひとりも見つかっていません。死体すらも……です」


 事実だけを羅列した説明を終えると、男は視線を下げる。

 現状であれば、わざわざいわくつきの相手を選ぶことはない、そう告げるように。


「はい……! ご説明ありがとうございます。でも……噂は噂……ってこともあるので、申請お願いします!」


「そう……ですか……。分かりました。それでは明日に予定を組みますので、十分に気を付けていってらっしゃいませ」



◇◆

「考えられるのは昨日の口調からすると、はぐれ星団とかに対する種身売買じんしんばいばいとか、パーティの役割を全うせずに逃げ出した、とかそういうことを伝えたかったんだよね?」


「そうだと思いますねっ! でも至って普通の同行だったので! というか、あたしが推薦しておいてなんですが、エステルさんもよく決断をしてくれたとは思っています……」


 宿への帰路につきながら昨日のやりとりを振り返っている。

 エディットはエディットで自身の提案ということもあり、いつも以上に気を張っていたことはたしかであろう。


「何かあるにせよそこまで心配はしていませんでした。エステル様が本種ほんにんを見ていたので」


 やや伝わりづらいルリーテの納得理由であり、当然の如くエディットとチピが、揃って首を傾げつつ、二種ふたりの顔を見上げていた。

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