第154話 リクエスト

「あっ……わたしこれ好きかも?」


「あたしこっちのお肉好きですっ! これ味付けを変えたのでしょうか?」


『チプッ……! チ~ピ~……ッ!!』


 休息日の夜。

 全員の無事を確認した後、ルリーテの振舞う料理に舌鼓を打ちっぱなしの一同。

 チピもルリーテに向かって翼で丸印を作り満面の笑みである。


「初めて扱うので少々戸惑いましたが、概ね好評のようで安心しました。セキ様が戻ってきた時のレパートリーに加えておきましょう」


 エステルたちの反応に微笑を浮かべるルリーテ。

 そこに肉にかじりついているエディットが視線を送る。


「どうですかね? 一応、リストアップして頂いた同行を終えたので、と思ったのですが……」


「あの灰色の髪のひとだよね? わたしも賛成だよ。同行なのか臨時パーティなのか分からないけど明日確認してみよっか」


 エステルの回答を受け、その顔に向日葵の笑みを浮かべるエディット。

 さらには、いかがですか、ともう一種ひとりの少女へ視線が移る。


「ええ。わたしも反対する理由は特にありません。エステル様も気にする様子もないようですし」


「いや~……あたしも中央大陸ミンドールに出たばかりの頃はクエスト紹介所に臨時パーティの申請しておいてもぜんぜん選んでもらえなかったので……」


 木円卓テーブル中央に配置された大皿から、肉を山盛りに取り分けつつ、


「なんだか他種事たにんごとに思えなくて……ありがたいですっ」


 すでにエディットの眼前に積まれた肉で姿は隠れているが、頭を下げている最中であろうことが想像できる。


「グレッグさんだったよね。今時点でそうやって動いてるってことは、単独ソロ思考のひとなのかな」


 根菜をかじりつつエステルが疑問を口に出すと、


「その可能性は否定できませんが、盾術士という職から想定すると考えにくいですね」


 炒めた豆を丁寧に口へ運ぶルリーテが己の考えを示す。

 セキとカグツチがいないため、チピ向けに取り分ける姿も見受けられた。

 それを眺めているエステルが、相棒とは……、と脱線した思考が生まれる程度にはとても自然な流れである。


「お目当ての星団や騎士団があり、実績を積んでいる最中ということもありますが……結局みなさん様々な事情を持っていますので」


「そうですよね~……セキさんみたいな実力者がごろごろいるとはさすがに思いませんが、南大陸バルバトスという土地柄を踏まえると僻地で生き抜くならそれだけ実力が必要になるので……生き抜くために強くなる、という考えもあって然るべきだと思いますのでっ」


 エディットがさらに同意を示すように大きく頷いているが、肉の裏から響く声だけがエステルたちに届いている状態である。


「あはっ。セキが戻ってくるって言ってた期間までまだまだ時間もあるし、わたしたち自身の鍛錬はもちろんだけど、色んなひとの話や経験もいっぱい蓄えておきたいから! コバルお金も蓄えて提供宿から脱出も考えなきゃだしね!」


「そうですね……似たような考えの方もいると思うので、次の宿のアテはある程度探しておいたほうが良いでしょう」


 ルリーテはカップから黒石茶を啜りつつ、賛同を示す頷きを魅せると、


「ガサツさんたちに提供してもらったようなとこが良いですね! 広々としてて寛ぎやすかったですっ」


 骨付き肉をかじりつつ、自分たちの状況、敷いては貯蓄を考慮しない発言がエディットから飛び出していた。


「えと……うん、まぁ……行く行くは……かな」


「目標を高く持つことに否定を入れることはありませんが……オカリナで宿泊していたくらいの宿が妥当でしょう」


「一度生活水準を上げるとなかなか昔には戻れないのですがっ」


 あくまでも妥協しないエディットの提案に、ルリーテの辟易した溜息が返事代わりとなる。

 そんな賑やかな食卓ではあるが、エステルはそれでも、ふとした時にセキの姿を探してしまう自分に気が付いている。


 セキがかさねとの戦いに赴くことを告げた表情は、表面だけの笑顔を縫い付けていたことも――

 セキの力をもってしても討伐が容易ではない、その事実にエステルはひと知れず胸を握りつけていた。

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