第151話 好感触の同行クエスト

 同行開始初日。

 エステルたちの前に『シュースト』と名乗る探求士が現れた。


「やあ~! 南大陸バルバトスには慣れたかい? 慣れてなくても安心してほしい……今日はこの僕がとことん付き合うからね!」


「はい、よろしくおねがいします!」


「ご指導よろしくお願いします」


「はいっ! 頼もしいお言葉ですねっ」


 警戒心を抱かせることのない爽やかな笑顔。

 少々お調子者な匂いを醸し出しているが、


「今日は戦う――というよりも僕が相手する魔獣を観察することを中心に考えてくれればOKさっ! 都度、説明はするけど分からなければ何度聞いてくれても問題ないからねっ!」


 街外れの合流から流れるように付き添いエスコートが始まった。

 道中で話をするに、どうやらこの時期だけでなく、自身の所属する星団の宣伝も兼ね、しばしば同行を買って出ているとのことだった。


「さ~そろそろ警戒区域だ! 出番だぞ! 『三原の火サラマンダー』! ――〈始まりの火を灯せ〉」


 シューストの降霊を合図に、少女たちのクエストの日々が始まりを告げたのだった。



◇◆

「ぬあぁぁぁぁ~~~!! 疲れた!!」


「充実した日々でした。みなさん想像以上に熱意を込めた説明でしたね」


「同じ魔獣でも、ひとそれぞれで得手不得手の解釈が違って視点の差というものがよく見えましたねっ」

『チピ~~~~!』


 同行クエストを初めて十日が過ぎた頃。

 本日の同行を終えたエステルたちは蓄えた知識と疲労の解消を目的とし、翌日を休養日として張り詰めていた気持ちを緩めた所であった。


 提供された宿にも慣れ始め、備え付けのキッチンではエステルが紅石茶を入れている最中である。


二種ふたりともお疲れ様! かなり色んなひとに同行してもらったけど正直どうだった?」


 エステルが丸盆トレイからカップを配り始める。


「そうですね。三原の火サラマンダーの契約者のシュースト様は女性の扱いにとても慣れていましたね。まぁ所属星団を聞いて納得しましたが……」


 キッチン脇の棚からお茶請けを取り出すルリーテ。

 少々辟易したように顔を引きつらせている。


「見る目はありますよねっ! 星団『桃の愛兎ローザニンヒ』と言えば二等星団でも有名ですから! 女性中心でシューストさんは種材探しスカウトも兼ねてるって言ってましたよねっ」


 褒め上手なシューストの言葉に綺麗に乗せられたエディット。

 ルリーテとは対照的にただでさえ緩い頬に加え口元も緩んでいるようだ。

 そして相棒のチピはすでに、大部屋リビング長椅子ソファーに留まり、紅石茶とお菓子をじっと待っている状態である。


「あはっ。たしかに乗せ上手な所あったよねっ。女性中心の星団だから褒めどころを抑えてるって伝わってきたよ~! 最後は『星団に迷ったらぜひ!』だったからね~!」


 配り終えた紅石茶を軽く啜りながら、頷くエステルも感触としては二種ふたりと変わらない印象であった。

 そこでお菓子をひとつまみ頬ばったルリーテが続く。


「私的な印象で言うのなら、ですが……三日目の『トートック』様の説明はとても興味深いと思いましたね」


「あはっ。『それがしは戦闘は苦手ですな!』っておもしろかったよね! でも魔獣の説明も細かかったし、便利な魔具関連の知識がすっごい豊富だったよね!」


「たしかに同行時も魔獣の警戒区域に入るとめちゃくちゃ慎重でしたよね! 『まぁ任せてくだされ!』って言って、攻撃を空振りして襲われた時は冷や汗モノでしたがっ!」


 明らかに戦闘能力ではエステルたちにも劣る探求士だった様子である。

 だが、彼女たちの口ぶりは文句や疑念を抱くよりも、その知識や説明の丁寧さに感嘆する口ぶりであった。


「あとはそうですね~あたし的に言わせてもらうと……六日目のゴルドさんでしょうか! 同じ癒術士ということで贔屓目ということは否めませんが!」


 トートックの話でさらに熱が上がったのか、エディットも進んで自身の印象に残る探求士の名をあげる。


「凄まじい魔装をお持ちでしたね……印象としてセキ様の武器に劣らぬような不思議な圧を感じました。ですが……星団メンバー様たちと鍛錬に夢中でお金コバルが底を付いた、というのは意外でした。とてもしっかりされている方だったので……」


 ルリーテから見ても好印象の様子だ。

 同行クエストを行っている理由には複雑な表情を覗かせているが……。


「あはっ。うんうん! 『各自バラけて同行や個別クエストで急場を凌いでるんですよ~あははっ』って、少し悲壮感が漂ってたよね……でも『茶土の小鬼ブラウニー』と契約してて頼りがいはあったよね」


「契約できたばかりなので、まだ慣れてないとも言ってましたねっ! やはり加護から昇格なり、契約更新なりは年単位の覚悟が必要と改めて思いましたね……チピが不死鳥フェリクスさんの力を借り受けられたことに感謝してもしきれないです……」

『チピ~!』


 さらに続く話の中でも、明らかな嫌悪感を抱くような種物じんぶつは出てくることがない。

 これもまた、初見の印象とは裏腹に、同行探求士の選別をした受付の男への好印象の材料とするに申し分ない結果であった。


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