第148話 妖精幽

「――というわけで、そういえば話したことなかったかも……?」


 話し終えた後、エステルが見渡すと、口を半開きにしたルリーテとエディットが目を輝かせている。

 妖精幽フェリア

 十から三十CRセノルほどの体躯を持つ種族である。

 ひとのように喋りが達者な者もいれば、赤子のように喋ることができない者も存在する。


「カグヤ様の契約精霊が妖精幽フェリアだったのですね……精獣様のように実体を持った契約というのは知っていましたが……」


「そもそも妖精幽フェリアって、ルリさんの小太刀くらいの体長なんですよね? めちゃくちゃ可愛いですよねっ。 まぁ小さくて可愛いだとあたしと被ってしまうのが残念ですがっ!」


 エディットの最後の言葉にエステルとルリーテの視線が虚ろな色を魅せると共に、ゆっくりと下がっていく。

 その行動を確認したエディットは、どういうこと、と言いたげにチピに瞳を向けるが、


『チピ~……』


 と、呆れたように首を振る真紅の小鳥。

 出会った頃の可愛げが一切感じられない態度に、自然と青筋を刻むエディットだった。


「カグヤお姉ちゃんと一緒にいた妖精幽フェリアは『ミーミー』って鳴くような感じでお喋りはできなかったけど、すごい可愛げがあったなぁ~……」


「たしか妖精幽フェリアの鱗粉には魔力強化の効能を持つ個体もいると聞きます。それに象徴詩を持って生まれてくる個体もいると……ですが」


 ルリーテが言葉に迷ったように話を区切る。

 自身と近い希少性を持つ種族。


 それが何を意味しているかは歴史が示していたのだ。


「それで過去に乱獲された時代があるんですよね……なので、暗精種ダークエルフもやや少ないとはいえ、石精種ジュピアと同じくらい貴重ですよね」


 ルリーテの躊躇いを察したエディットが言葉を紡ぐ。


「わたしも幼かったから断片的だけど、セキに聞いたらもっと違う話が聞けるかもしれないよね。精選でもめちゃくちゃ精霊に好かれてたわけだし……あわよくば……隠れ里的なところを知ってたり……」 


 さらにエステルが続いたが、少々自身の欲望も漏れてしまっているようだ。


「そこまで上手くいくとは……と言いたくなりますが、本心では縋りつきたくなってしまう自分が情けないですね……」


「そういう場所がほんとにあったらチピを差し出すので、妖精幽フェリアに乗り換えできないですかねっ?」


『――チピ!?』


 ルリーテも加護精霊という立場を自覚しつつ、自身を戒めるように首を振る。

 その横でエディットがしれっと相棒を見捨てているが、妖精幽フェリア不死鳥フェリクスではとても残念ではあるが、妖精幽フェリアに軍配が上がることは決してない。


 それほどまでの格を持つ不死鳥フェリクスであるが、チピ自身がその威厳を醸し出す日はまだまだ遠い日の様子であった。



◇◆

「いらっしゃいませ。昨日のお約束通り同行申請可能な探求士をリストアップさせて頂きました」


 翌日。

 エステルたちはクエスト紹介所に足を運んでいた。


「え~っと……お勧めのひととかっているんですかね? 腕前の噂に聞き耳を立てれるほどまだここに馴染んでいるわけでもないので……」


 並べられた写水晶グラフィタルを見るも、あまりにも情報がないため、目が滑るばかりである。

 唯一の知識として、エディットが軽く話した男の姿を探すもリストアップはされていない様子であった。


「その通りです! そういう状態だからこそのお勧めは……日替わりですね!」


 それってありなんだ……。

 少女たちの脳裏に等しくぎった思いである。


「他の例としては星団を指定する新種しんじん様も珍しくはないですね。地理や魔獣の情報もさることながら、星団の情報を集めたいというのも正直な心理なのでしょう」


「おぉ~なるほど……それに入団したい星団があるひとも珍しくないですし……ふむふむ……。でも――わたしたちはそういう要望はないので、お勧めの『日替わり』で同行をお願いしても良いですか?」


 エステルの言葉に男は、任せてくれ、と言わんばかりに胸に手を当てつつ、一礼を繰り出す。


「それでは早速明日から予定を組ませて頂きます。こちらでチェックはするつもりですが、何か問題などございましたら遠慮せずにお申し付けください」


「――はいっ! よろしくお願いします!」


「初見で怖さはありますが、同時に楽しみでもありますね」


「イケメンな方いますかね? イースレスさんみたいな方が良いですねっ!」


 すっかりパーティに慣れ、自分の気持ちを偽ることなく言葉に出せるようになったという点では喜ぶべきだろう。

 だが、エステルとルリーテの想像を上を行くミーハーぶりは、受付の男も思わず苦笑でその場を凌ぐほか、手立てを見出すことができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る