第145話 初陣からの帰還

「もうすぐ着きそうだね……行きも砂地以外では魔獣に会わなかったしなんとかなりそう!」


「正直な意見としては、ホッとしていますね。警戒を重ねてなお相手の策で負傷した挙句に最後はでしたのね……」


 夜光石の明かりに見守られながらの帰路。

 道中での会敵がなかったこと、そしてレルヴの街の明かりが微かに目視できたことから、三種さんにんも大きく息をはいていた。


「ルリさんの言う通りですね……それと治療していて気になったのですが、あの爆発に対して、あたしたちの傷も浅すぎたような……というかちょっと治癒していたというか……南大陸バルバトスの魔力濃度のおかげですかね?」


「う~ん……そこまで恩恵があるのかな。でもそうなると魔獣も仕留めきれなかった場合、ちょっと怖いね……魔獣あっちのほうが魔力濃度の恩恵も高そうだし……」


『チピッ……チプチプッ』


 進行を止めることなく足を動かすが、街の明かりが見えたあたりから口数が増えていることは誰も気が付いていない。

 そんな中、チピは少しむくれたように鳴き声をあげているが、


「そういえば……降霊は術者が意識を失うと解除されるようですね。わたしが目を覚ました時はすでにダイフク様は鳴いていたのは覚えています」


「おぉ……! 言われてみるとっ! 完全な精霊の場合も一緒なのか不明ですが……というか、そこらへんはセキさんにも聞いておいたらよかったですね。まぁ……あのひとが降霊中に意識を失うって想像しにくいですが」


『ピピッ……! チピィ~……』


 気が付くと一列縦隊から横並びで気軽に歩いている一同。

 それは周囲もすっかり木々が茂る緑豊かな景色に変わったことも、一因を担っていることが分かる。


「も~チピさっきからどうしたの~?」


 そこでぷりぷりと頬を膨らませ、エディットの頭の上で鎮座するチピへ、エディット自身が瞳だけを頭部へ向けながら問いかけるも、


「なんだか拗ねてしまっているようですね。セキ様やカグツチ様がいるともう少し意図が分かるのですが……」


「グー様は似た者同士かなって理解できるけど……セキはセキでちゃんと分かってたよね……同じように動物と過ごした期間が長いからって……鳥じゃなくて犬の親戚みたいなやつとか、とは言ってたけど……」


「――え゛……そんなこと言われると困るのですがっ! あたし正直あんまり分かってないですよっ!」


 だからセキに懐いているんだね――その言葉をエステルとルリーテが共に飲み込んだことをエディットは知る由もない。


「ま、まぁ……ほらもう契約した正真正銘の相棒なんだからそのうち――ね? グー様みたいに喋れるようにって思うけど、精霊として各が上がると喋れるようになったりするのかな?」


「所謂、精獣と呼ばれるくらいになると……でしょうか? 過去に精獣と呼ばれた朱雀スザク白虎ビャッコが元々喋れていたのかは不明ですが……」


「もう神話みたいなお話ですしね……暗精種ダークエルフに限らずですが、長寿の種族でも精獣って見たことがあるわけではなくて、言い伝えや口伝でしか知らないって言いますし」


『チピー……チプッ!』


 互いに横目で視線を交わし、最終的に話題の中心であるチピへ視線が集中するが……

 伝えることをすでに諦めているチピはご立腹の様子である。

 三種さんにん共に、これはもういいよ的なことを言ってるな、という思いはまさに的確にチピの思いを汲んでいたが……チピからすればその前の意図に気が付いてほしいという所であろう。


「ん~……わたしたちも少しは気が付けるように頑張らないとだね~……でも……――」


 ふいにエステルが前に走り出す。

 さらにその体で十二分に喜びを表現するように振り返りその両腕をあげた。


「レルヴに到着だよっ! 討伐の後半はちょっと……だけど! 南大陸バルバトスの初陣から無事に帰還したんだよ!」


 夜光石の明かりが薄れ、じょじょに日光石の光が辺りに差し込むこの瞬間。


 エステルの心境と調和するかのように、彼女の背後が照らし出されている。

 ルリーテとエディットも帰還の言葉に高鳴る胸の鼓動に抗うことなく、静寂の朝に喜びの声を響かせていた。

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