第142話 未知の戦術
「さっきの雄叫びは仲間を呼んでますよね? 総力戦で一気に倒して森を脱出しましょうっ」
異変に気が付き迅速に合流したエディット。
先の雄叫びの意味も理解した上での参戦であった。
「うん……! まんまと騙されたけど、これ以上好き勝手にはさせないよ! 今度は――って、えッ!?」
傷付いた
魔獣も動物同様、怪我を負った場合、逃げ出すとはしないまでも、間合いを空けて様子を伺うことが多い。
そんな経験則を容易くひっくり返された少女たちは咄嗟に横っ飛びで爪による斬撃を交わすが――
「あぐっ――!! 爪に加えて、煩わしい尻尾ですね……!!」
少女たちの中心に放った爪を回避されるも、そのままの勢いで回転しながら薙ぎ払った尻尾はルリーテの腹部を叩き上げていたのである。
少女たちの中心に降り立った猿は傷に悶えるも、獲物への歓喜が勝っているのか、口から溢れ出す涎が止まる気配を感じさせない。
「主導権を離さない気概は認めますが、そうはさせませんよ!! 〈
エディットの突き出した手から放たれる緋炎が、猿の背後へと解き放たれた時、瞬間的に身を屈め上空へと飛び跳ねる。
「助かります……」
しかし。
エディットの詩はそもそもが猿を狙ったものではない。
ルリーテの肩口に着弾した緋炎は、傷口に纏わり付き深々と刻まれていた傷跡が徐々に塞がっていく。
『ギッ!! ――ギギィィィィィィィッーーー!!!』
その光景に理解が追い付いていない
枝に掴まりながら、怒りを露わに叫び声を上げるが、
「珍しいからって気を取られすぎ――ッ!! 〈
爆風に煽られるも、大樹に尻尾を巻き付け態勢を整えに入る。
だが――それを黙って見ているわけもなく。
恰好の的と言わんばかりに暴風を纏った矢が尻尾を抉り抜いた。
「治癒で魔力が落ちたとしても――尻尾くらい射貫くだけなら十分です」
さらに畳みかけるように、炎の爪を構えたエディットが跳躍している姿を視界の端に捉えると、大樹を蹴り体を翻しながら地に降り立った。
「蠍よりもさすがにすばしっこいですね……ここで仕留めたかったのですが……」
爪の一撃が空振りに終わるも、落胆の色を一切見せず鋭い瞳を猿へと向けるエディット。
『ギィッ!! ギキィ……――!! キキャァァァァァァァァ!!!』
先手を打ってなお、動じることのない少女たちを前に、取り繕うこともない咆哮をあげる。
一向に集まる気配のない仲間。そして、思い通りに運ばないこの戦闘への苛立ちが言葉以上に詰まった雄叫び。
「なんで仲間がこないのかは分からないけど……そんな威嚇はもう意味がないよ……!
エステルの言葉を理解したわけではないだろう。
だが……言葉に詰めた意思はその壁を飛び越えていく。
牙どころか、その醜悪な歯茎までも露わに歯を軋ませる猿が自らの身を掻きむしる。
「これでお終いです! 〈
「〈
そこへエディットの放つ特大の火球。
さらには火球を飲み込み魔力のうねりをあげる
「食らえーーッ!!」
突如、
手の平に収まる程度の石を投げた所で、この状況を覆せるはずもないのだ。
火球へ投げれば飲み込まれ、エステルたちへ投げれば弾かれる。
それがすでに定められた結果。
――のはずだった。
下手で迫りくる火球へ石を放り投げ、火球はいとも容易く石を飲み込んだ。
その直後――
火球の魔力が膨れ上がったかのように急速な膨張を始め、
「――えっ? ――な!?」
赤黒い閃光が、
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