第136話 握りしめる実感
擦れあう金属音が絶え間なく砂地へ響き渡る。
砂塵の中に映し出される二つの影。
「硬いですね……エステル様! エディ! そちらは任せました! こちらは――」
ルリーテは擬態で砂地に潜んでいた蠍との攻防を繰り広げていた。
小太刀に纏う
「――
ルリーテの瞳に宿る意思に揺らぎはなかった。
「今までの魔獣であれば受けようとしてもそのまま切り落としていましたが……
相対する蠍の両鋏。
さらには頭上、時に地中から襲い来る尻尾をルリーテは右手に握った小太刀で全て受けていた。
左手は力を込めてはいるものの、時折小太刀に添えるだけで明らかに利用頻度が低い。
「
遠心力を利用した尻尾の叩き付けを大きく背後に飛び退きながら躱したルリーテ。
着地したその左手に握りしめるは
「――〈
詩と共に弓へ注がれる魔力が、
相手もその魔力に危険を感じたのか、伸縮自在の尻尾を間髪入れずにルリーテへ伸ばした……が――
「
毒液を振り撒く針がルリーテに届く直前。
引き絞った弦を解き放った――
翠色の光が螺旋を描き、尻尾の針ごと易々と貫いていく。
止まることなく、貪欲に突き進む魔力の螺旋は、蠍の構えていた左腕の鋏に突き刺さるとその強烈な回転により甲高い音色を奏でながら……――魔力をふんだんに蓄えた鋏を粉々に破壊した。
「〈
自慢の鋏を破壊された動揺からか。
六本の足を総動員し後退を見せるも、ルリーテはすでに右手に握りしめた小太刀に風を纏っていた。
急速に詰められた蠍が残る右手の鋏を振りかぶり叩きつける。
轟音に相応しい砂塵を巻き上げるも、狙った獲物の姿はない。
「その行動は悪手でしょう――」
ルリーテは振り下ろされた鋏を回転しながら避け、その反動をも自身の力に変え小太刀を横一線に薙ぎ払う。
ルリーテの流れるような刀尖が煌めき、右横腹から生える足三本を節の位置など関係なく断ち切る。
だが――そこで、蠍は最後の足搔きと言わんばかりに、鋏を横に振るうも、
「そうくると思っていましたよ――ッ!!」
言葉通り待ち構えていたルリーテが、横に薙いだ小太刀を跳ね上げると鋏の根本、腕の節を切り裂いた。
「これで最後です――ッ!!」
跳ね上げた小太刀を蠍の側眼から突き入れ、さらに背面を切り裂くと、微かな呻き声と共に、
「さすがに
運よく掴み取った勝利ではない。
互角以上に渡り合い、自身で組み立てた
「
少女は自身の拳を強く握り。
確かな実感を嚙みしめながら空を仰いでいた。
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