第132話 星団

「いや~お昼食べることも忘れて夢中になっちゃったね……!」


写水晶グラフィタルもそうですが、他にも目新しい魔具がいくつもあったのがとても衝撃的でした。日々強力に成長する魔獣と戦うために道具も発展していってるのですね」


「ワクワクしてきますねーっ! でもお昼ご飯の催促はあたしがずっと呟いていたので忘れていたわけでない! とだけは言わせてもらいますっ」

『チピ~……』


 ギルド提供の宿に腰を据えたエステルたち。

 クエスト紹介所の余韻を噛みしめながら、長椅子ソファーで歩き詰めの足を労わっている最中であった。


 少女たちは胸から溢れ出す思いの丈に喉を震わせるも、若干一名は食事をスルーしたことによる怨恨を吐き出している様子である。

 さらにチピは途中で勝手に自身のみ食事を調達しようとするも、エディットに掴まったため、木角卓テーブルの上で絶賛飢餓アピール中でもあった。


「帰り際に受注所を通る時が一番賑やか、というよりも一部の方からは発狂にも似た奇声があがっていましたね」


 エディットとチピのアピール空しく、さらに先ほどの出来事を振り返っているルリーテ。


「うんうん! 期待の新種ルーキーさんとかだったり、こっちの種気にんき星団のひととかがいたのかもしれないね!」


 紅石茶を乗せた丸盆トレイを手にするエステルも目を輝かせながら、ルリーテの言葉に反応している。

 すでにエディットとチピはアピールを諦め、配られた紅石茶を黙って啜っている状態である。


種気にんき星団といえば、エステルさんは星団はつくらないのですか? 個種的こじんてきに言えば特に気にしているわけでもないのですが、話題が出たので」


 鳴り響くお腹の虫から注意を逸らすべく、エディットが話題に食いつき、チピは負け時と羽でお腹をさすりながらルリーテを眺めている。


「もちろん作るよ~っ! 南大陸こっちに来たらやりたかったことの一つだからねっ! 東大陸ヒュートとかでも作れないわけじゃないけど、なんていうか区切りみたいな感じでちょうどいいしね!」


 エディットの問いにエステルが前のめりな反応を示す。

 通常はある程度の種脈じんみゃく種数にんずうの目星がついた後、申請することが多い。

 だが、一パーティ前後の種数にんずうだからと言って申請ができないわけではないのだ。


「詳しく調べていませんが、いたずらに星団を立ち上げるだけの輩対策として、ある程度のギルドメダルが必要とは聞きますが、それもまた駆け出しのわたしたちにとっては良い目標になるかもしれませんね」


 チピの哀願の眼差しを受け、宿から提供されているお着き菓子に加え木の実を木皿に乗せているルリーテ。


「ふむふむっ。たしかに近い目標を持つのは分かりやすくていいです! 行く行くは……一等星団ですね!」


 ルリーテが木角卓テーブルに置いたお菓子の木皿を、自身の元へ引き寄せながら熱意を見せるエディット。

 チピは木皿の端に飛び乗り、安泰の体を示している状態で黙々とお菓子を頬張っている。


「う~……もちろんそうだけど……一等星団って『土の巨象ラウファント』、『風の牙虎ヴィントティガー』、『深海令嬢フロイライン』とかってことだよね……? ちょっと想像できないなぁ~……」


 エディットの熱意を受け止めようと試みるも、虚勢を張ることもおこがましいと言うように尻つぼみな返事のエステル。


「序列の最上位を目指すにしても順番がありますからね。それに一等星団ではなくとも『赤の気まぐれ猫ロートカッツェ』などの星団は負けない種気にんきを誇っていると聞きますし」


「そこらへんを倒していけば……あたしたちが一番ですねっ!」


 エステルとルリーテ、に対してエディットの考え方が物騒すぎである。

 序列がある以上競うことは競うが、星団同士で戦うわけではない。

 魔獣討伐やクエストによる貢献等、様々な要素から決められているのである。


「倒すは違うにせよ……上を目指していきたいことはたしかだよっ! う~こんな話してたらやっぱりうずうずしてきちゃうなぁ……! よ~し……明日から挑戦するクエストの相談しよう!」


 憧れに手を伸ばし始めた彼女たちの見据える道は、今確かに光輝いている。

 そんな眩い道へ一歩踏み入れたい――

 いや……駆け出したいと思う気持ちを止められる者はいないだろう。


 エステルの浮かれ気味の気持ちに引っ張られ、ルリーテとエディットも自然とクエスト調査に没頭する。


 そして残されたのは、お菓子を食べ尽くしてなお、侘し気な瞳を携えお腹を鳴らす真紅の小鳥だけであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る