第130話 肩透かし

 エステルとルリーテは受注所の入口を起点として探し回るも、一向に姿が見えない。

 そもそもがエディットの場合、背丈の都合上、ひと混みに紛れた瞬間に見失うという隠れるには最適だが、探すには困難な性質というのが捜索の一番の問題点であったが。


「エステル様。あれでは……」


 エステルの肩を叩き指差した先。

 そこに受注所の壁面を見上げながら見知らぬ男と並んでいるエディットの姿を捉えたのだ。


「そう……だけど、もう一種ひとりの灰色の髪のひとは誰だろ? すっごい盾背負ってるけど……」


「その手の趣味の方であればエディが危険ですが。雰囲気を見る限りでは大丈夫そうですね」


 エステルの疑問に少々辛辣な独断を下すルリーテ。

 何言ってんの、とエステルが頬を指でつつきながらエディットの元へ向かう。


「あっ! いました! ご丁寧に説明してもらってありがとうございました!」


「おう! クエストする時にメンバー不足の際は是非とも指名を頼むぜ~! その目立つペットもこの大陸じゃ油断してると空から魔獣にかっさらわれるから注意してな!」


 エステルたちの姿を確認したエディットが、向日葵の笑みを向けつつ手を振っている。

 近づいた拍子にエディットの挨拶を済ませた男は、エステルとルリーテに向かって軽く挨拶代わりに手を上げると背を向けて奥へ歩いていった。


「ご心配おかけしました! 受注所入ったら他のパーティの流れに巻き込まれましたっ!」

『チ~ピピッ!』


 ハツラツとした態度に胸を撫で下ろすエステル。

 隣のルリーテも同様の気持ちではあるが、疑問を解消するべくまた一歩近づくと、


「今の方はお知り合いの方でしょうか? 盾術士繋がりだったり……?」


「いえ! 初めてお会いした方ですねっ。どうやらギルド側の配慮があるようで、新種しんじん探求士さんのお手伝いクエストが発注されているようです!」


 ルリーテの意図を零さず受け取ったエディットが、補足も含めた事情を説明する。


新種しんじんさんのクエストに同行して説明などを請け負っているとのことでした!」


「あ~……そういうことだったんだ。至れり尽くせりじゃないけど、周辺の環境も地図で確認しただけだし、実体験を踏まえて説明してくれるってありがたいね!」


 エステルがエディットの言葉を踏まえて辺りを見回すと、そう数は多くないが。

 たしかにエステルたちのような新種しんじんに、声を掛けている探求士の姿が目に留まった。


「なるほど……臨時パーティなども考えていましたが……相手がクエストとして受注しているなら、お互いに利害が一致しそうでお手軽でもあります。とてもありがたい制度ですね」


「あたしもそう思いますっ! 何度かクエストをこなして疑問が出てきたら質問も兼ねてお願いするのも良いかもしれませんっ」


 ルリーテとエディットも前向きな姿勢を示しており、自身も活用するべき、と選択肢に含めたエステル。

 初見では慎重にならざるを得ないが、踏み出すことで得る物は大きいだろうという考えはある。

 それはひとえにキーマとの臨時パーティを体験しているからこその考えでもあった。


「うん。上手く利用して早く南大陸バルバトスにも慣れていこう! それにちょっと気になることもあるし……」


 エステルは二種ふたりにこの場に留まるよう手の平を向けると、小走りで受付へと向かった。


「あの~すいません。クエストの同行について聞きたいんですが――」


 受付に立っていた細身の受精種エルフの男へ声を掛ける。


「え~はい。どういったご質問ですかね?」


 率直な態度に面食らうエステル。

 だが、本題はそこではない、と言葉を続ける。


「同行して頂く探求士のひとは選べるものなんでしょうか?」


「あ~……できなくはないでしょ~ね~。でも選ぶくらい顔見知りならそもそもギルドを経由せずに一緒に行けばいいんじゃない? とも思いますね~。基本的に同行は戦力というより案内ガイドの傾向が強いので」


 先ほどの去り際の話との食い違いに首を傾げるエステル。


(あれ? 同行じゃなくて臨時パーティ的に指名してくれってことなのかな?)


「――というより、南大陸こっちに来たばかりなら、選ぶ相手よりも自分たち自身の実力の心配をするほうが良いかと~」


 さらに受精種エルフの男が紡いだ言葉。

 新種しんじんだからって、扱いが軽いんじゃない! と心の内で歯軋りをしているエステル。


「え~はい。それとレルヴこっちに来たばかりの探求士が受けるようなクエストってどんなものがお勧めなんでしょう?」


「それこそあんたたちの実力次第でしょ~。実力があるなら千獣でも禍獣でもご自由にってね~」


 紹介所の熱気からは考えられない肩透かしを食らい、思わずエステルが遠い目を向けるほどな脱力具合である。

 さらに男は言葉に詰まったエステルを見るや否や、


「質問は以上のようなので~まぁ頑張ってください~」


 口調や仕草からは想像できない迅速な引き際を前に、エステルに引き留める思考は一切湧かず、その背中を見送るに留まっていた。

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