第127話 首都レルヴ

「お……おぉぉ!!」


 立ち尽くすエステル。


「これ……がランパーブ……」


 半開きの口を閉じることなく、ゆっくりと周りを見渡すルリーテ。


「大陸が違うと――ここまで町って変わるものなんでしょうかっ!」

『チピィ……』


 あちこちに視線を巡らせ落ち着きのないエディット。


 ここはランパーブの首都『レルヴ』の港である。

 早朝に出港したが、距離が距離であるため、今はすでに夜光石の時間帯に差し掛かっていた。


 降り立った先に広がる光景に目を奪われる少女たち。

 それは街の至る箇所に見られる魔具の存在が大きい。

 街灯一つとっても、エステルたちが知る単色の明かりだけではない。

 さらに一定時間ごとに色が変わるだけでなく、特殊な魔術を施しているのか明かりの形が文字を彩り、アーチを描いている。


 記された文字は『ようこそ! ランパーブ首都レルヴへ!』。

 この出来事だけでも上陸した探求士たちの心を掴むには十分な衝撃インパクトである。



「あれ……は写水晶グラフィタル……? あんな大きい水晶に……」


 エステルの目に留まった物は、背丈の五倍はある特大の水晶だ。

 巨大な街の地図が写っており、その傍らに控える案内種ガイドが指を差すと仄かに地図上の指定点が点滅している。



「建物も……ただの木や石ではないような? 何か術が施してあるのでしょうか……」


 ルリーテが近くの建物を見上げた後、足元に視線を落とす。

 すると、建物の足元部分に詩が記されていることに気が付いた。


「腐蝕耐性? それとも強化……? 壁にぜんぜん経年劣化も見られませんね……」


 建てられたばかりと見間違えるほどの保存状態。

 特殊な材木や石を利用しているかまで、ルリーテには判断することはできないが、少なくともこの刻まれた詩が無関係ということはないという思いもあった。



「あれは……泥猪ドロシシのお肉ではないでしょうかっ! 加工の手間から市場に並ぶことが珍しいと言われていますがあんなにたくさんっ!」


 露店に並べ慣れた肉を視野に納めると、エディットの目が煌々と輝きを放つ。


 加工前や加工中の場合、肉から漂う臭気に気を失う者さえ出るという、加工するためにかなりの決意と手間が必要な肉である。

 このように気軽に売られていることじたいが、南大陸バルバトス以外から来た者にとっては珍しい光景なのだ。


「たしかに泥猪ドロシシですね……とても興味深いです。宿は手配されているので、一度、荷を置いて……と言ってもほぼわたしの宝石の中に入れてしまっていますが、宿を確認してからもう一度街に出ませんか?」


 ルリーテは片手にガジュマルの鉢を抱えながら散策を促す。


「うん! 整備されてるっていうのかな……こんなに綺麗な街。歩くだけでも楽しそうだよ!」


 街の風景に目を奪われていたエステルも振り返りながら、ルリーテの案に大きく頷いた。


「はいっ。あたしも賛成です! エステルさんが見たいって言ってた石碑もあの水晶の地図に載ってますし、宿を起点にして色々見て回りましょう!」


 彼女たちと同様に下船した他の探求士たちも、レルヴの街に圧倒されつつも、誰もが瞳を煌めかせ、頬を緩ませる者ばかりである。


 胸から湧き出る衝動を抑えきれない、という姿があちらこちらで披露されている。

 そんな光景を街の種々ひとびと、そして騎士や護衛の探求士たちも、自身の昔を振り返っているのか、口角を上げた和やかな顔を向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る