第122話 教会の章術士

「――え゛? 前にアロルドが言ってたのってナディアのお姉さんのことだったの?」


「話を繋げるとそういうことだったみたいだね。僕も聞いたのは昨日だけど……」


「でもアロルドあの子も間抜けなのよ。過去に会った時、騎士団の鉄仮面着けてたみたいで、『リディアさんに忘れられてたっス』ってね……顔も見せずに一方通行してたみたいよ」


 セキ、アドニス、フィルレイア。

 三種さんにんは、大樹の根本より足を進め、ハープ周辺の安全地帯との境目まで進んでいた。


「いやいやいやいやいや――それでも結局はアドニスお前のとこってアロルドとそのリディアさんも加わったってこと?」


「まぁ……そうなるね。ナディアはリディアさんと共に冒険ができるってもうウキウキだったよ。アロルドもひとの懐に入るのが上手というか……年に見合わない元気ハツラツな距離の詰め方してくるから流れでそうなったね……」


「アロルドの性格についてはもう平謝りしかできないわ……あの子、わたしの一つ下だからもう二十三才よ? あれでセキの三つ上なのよね……」


 主にアロルドの話題が中心となっているが、三種さんにん三種さんにん共に遠い目をしている。

 フィルレイアに至っては側にいるのがイースレスであるため、なおさらアロルドの子供っぽさが目に余るようだ。


「それならアドニスがここで単独行動を安心してとれるのも納得っちゃ納得かなぁ……でも……――ちょっと待った」


「うん。あれは……飛頭獣チョンチョンだね。守護騎士とかとやりあってるけど……」


「そうね。あれ教会派遣の章術士と守護騎士じゃない? 連携がお粗末すぎるけど」



◇◆

「騎士さん前に出すぎですっ! その位置じゃ――」


「何を言ってるんだ! 距離を取り過ぎて魔法を発動されれば不利になるのはこっちなんだぞ!」


 白のドレスを身に纏い短円套ショートマントをなびかせながら、守護騎士と連携を試みる女性。

 そして、白銀の鎧に身を包み、己の上半身を隠すほど大きな盾、そして盾に見劣りしない大剣を持つ守護騎士が三名。

 共に戦ってはいるものの、意志の疎通ができていないことは傍から見ても伝わるほどであった。


「相手はうちらの分断を狙ってるんです! 飛頭獣チョンチョンは単独で行動することは滅多にありません! だから――」


「他が出てくる前に目の前のこいつを倒せば問題ない!」


 『飛頭獣チョンチョン』。

 ひとや獣の頭部に酷似した体を持ち、耳は羽のように広がっている。

 毛髪部分は自在に伸び、鞭のようにしならせて相手を打つことも可能なやっかいさ。

 大きさはひとの胴体ほどで大きいわけではないが、空中を自由に飛び回る機動力は侮れない魔獣である。


 飛頭獣チョンチョンが耳に似た羽から、圧縮した風の弾を騎士目掛けて放つ。

 騎士は盾を前面に構えながら怯むことなく距離を詰めていく。


「その詰め方じゃ――ッ!」


 女性が叫ぶも騎士は構わず突き進む。

 だが――

 その突き進めていた足が何かに搦めとられたようにすくわれた。


「な――なんだ?」


 騎士がすくわれた足に目を向けると、小汚い糸が幾重にも絡み合いながら足首に巻き付いていた。

 それは一種ひとりの騎士だけでなく、三種さんにん共に片足を拘束される結果となっていた。


「それは飛頭獣チョンチョンの毛です! 間に合って! 〈星之結界メルバリエ〉――ッ!!」


 三つの星を行使し、三名に星の結界を施す。

 ――その瞬間。


『ギュィィイアアアア――――ッ!!』


 結界によって千切られたことによる痛みか、叫びをあげながら騎士の左右に一匹ずつの飛頭獣チョンチョンが地中から姿を現した。


「合計三匹。お互いに背を預けて下がってください! うちの魔力強化後に各個撃破を――」


 そんな女性の声も届かず、騎士は向かい合った飛頭獣チョンチョンへ各々が大剣を振り上げながら飛び掛かった。


 飛頭獣チョンチョンは、騎士たちを嘲笑うかのように羽を仰ぎ、剣の届かぬ高さへ舞い上がる。

 さらに空中で集結した飛頭獣チョンチョン一種ひとりの騎士目掛けて圧縮した風の弾を連続で放出する。


 しかし――


「〈星之煌きメルケルン〉!!」


 直下に放出した風の弾は、女性が詠んだ魔術の爆発に遮られる形となり、狙われた騎士はその隙に危機を脱出することに成功した。


「互いに離れすぎです! もっと近くに――」


 女性が騎士たちの元へ走りながら叫んだ時、飛頭獣チョンチョンは理解したのだろう。

 先に屠るべきが誰なのかを。


 三匹の魔獣の瞳が、ぎょろり、と女性に集中すると騎士たちを置き去りに滑空しながら女性との距離を詰めていく。


「ぐっ! やっぱりうちのほうに――それなら……!!」


 急制動し、己の手に握る徽杖バトンを横薙ぎに振るい迎え撃つ構えを見せる。


『ギュァアァア――――ッ!!』


 槍のように鋭く編み込んだ毛を突き立てるべく、風の弾を乱射しながら、咆哮と共に襲い掛かる飛頭獣チョンチョンだが――


 その毛も風の弾も、女性に届く直前に、蒸発したかのように突如消えることとなる。


 女性は目を剥きつつも、さらに飛頭獣チョンチョンに目を向けた時、滑空状態だったその体に幾重にも切れ込みが走る。

 やがて……紫の血が滲みだし、音を立てることもなく四散していく様を見届けることとなった。

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