第121話 提案

「フィア!?」


 セキとアドニスが同時に驚愕の眼差しを向け、その視線に見合った声をあげた。

 フィルレイアは魔力を隠すこともなく、ただアドニスの魔力を追ってきただけにも関わらず二種ふたりは一切気が付くことはなかった。


「あなたたちがびっくりするってなんだか気分がいいわね。でも……それほど深刻ってことよね?」


「セキ様。お久しぶりですね。そしてアドニス様は初めまして。私は――」


「――いや、この大陸に身を置いていて貴方を知らないわけがないでしょう。イースレスさん……ですよね?」


 フィルレイアの横に立ち、片手を胸に添えながら金色の髪を垂らすイースレス。

 だが、アドニスは衝撃のままに思考する間もなく口を挟んでいた。


「ははっ。嬉しい言葉をありがとうございます。ですが……私も気軽にイースと呼んでください」


「ええ。分かりました。こちらこそ出会えて光栄です」


 アドニスは一歩前に出るとイースレスの差し出した手と固く握り合った。

 さらに握手後に続けて、セキに向き直すと、


「イースひさびさだ~! 相変わらず年を感じさせないイケメン具合だ~! それに……各段に魔力の密度も上がってるのが見えるよ~!」


「セキ様にそう言って頂けるとは努力が報われるというものです」


 互いに口角をあげながら、再会の抱擁を交わす。

 そんな姿をアドニスは意外そうに見つめていると、取り残されたフィルレイアが軽く頬を膨らませている。


「イースほんとあんた男女共に好かれるわね……」


「うん……僕もセキが美男にあそこまで素直な態度取るのは驚いた。基本的に顔がいいやつは滅びろ、が彼の生き様スタンスだし」


「まぁ種柄ひとがらじゃの。フィアお主と違って礼儀がなっとることが雰囲気から伝わってくるからの」


 フィルレイアに辛辣な言葉を浴びせながら顔を出したレヴィアは、ベヒーモスに羽を振ると頭巾フードの中へ隠れたカグツチの元へ忍び寄っていく。

 カグツチの悲鳴が頭巾フードから零れるも、一同が意に介さない素晴らしい連帯感である。


「セキとアドニスに挨拶してからって思ったら、アドニスがもう町を出てたから追ってきたのよ。セキも一緒とは思わなかったけど……」


「ああ、ごめんごめん。そういえばハープこっちで挨拶するって言われてたこと、すっかり頭から抜けてたよ……アドニスの話聞いてちょっと他のことが考えられなかった……」


「あ~すまない。セキが顔見知りだったみたいだからそっちだけかと思ってたよ……でもイースと顔見知りになれたのは僕にとってもありがたい話だ」


 フィルレイアのむくれ顔が収まり、追ってきた経緯を簡潔に述べる。

 さらに――


「あなたたちがそんな状態ですもの。プリフィックも放っておけないから帰ろうかと思ってたけど……良かったら事情を仰いなさいな」


 その言葉にセキが口を開こうとするも、アドニスが制止するように腕で遮るような仕草を見せた。


「ここは僕から――」


「おお……そっちのが話しが分かり易そうだな」


 腰を下ろした二種ふたりにここまでの経緯を上手に嚙み砕き説明を施すアドニス。

 説明が進むに連れ、フィルレイアとイースレスの表情が移り変わる。

 当初の余裕がなくなっていく一連の様子が鮮明に見て取れた。


「何よ……しかも自然魔力ナトラが溢れ出してくるこの時期って最悪じゃない……」


「どのくらい竜の力が顕現しているかは分かりませんが……過去にも竜の出現と言われたものは大抵は自然魔力ナトラが溢れ出した時期の襲のことを指している、と言われていますからね……」


 蒼白な顔で忖度なしの意見を口にするフィルレイアたち。

 その姿を見たセキとアドニスも頭を抱える他ない状況だ。

 しかし。


かさね相手だし、業鬼種オグルの隠れ里ってことじゃ、騎士団使えないけど……まぁでも竜の力を持つわたしたちでなんとかしましょ?」


「――え? フィアも手伝ってくれるのかい? 僕としては願ったりだけど……」


 フィルレイアの提案に意表をつかれるアドニス。

 任せなさい、と言わんばかりにぎこちない笑みを向けながら、指先で丸印を作っている。


「あ~それはめちゃくちゃ助かる。それならエステルたちの元へ帰れる確率も上がるしね……このタイミングであの子たちを置いてくのが不安でしょうがないけど……それは過保護すぎかなぁ……」


 セキも軽く安堵の吐息を漏らしている。

 そんな姿を見たイースレスが視線をセキへ向けた。


「セキ様……よろしければ……――」


 現状を俯瞰で見渡したイースレスの提案に、セキはまたも抱擁を交わすこととなっていた。

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