第107話 それぞれの談笑

「次から次に料理が追加されてどれを食べたか分かんなくなりそうですねっ」

 

 探求士たちは今の状況に胸が詰まり食事も喉を通りにくいのか、立ったまま軽食を摘まむ者が多いなか、食事パーティー会場で一心不乱に料理を貪るエディット。

 配置された木円卓テーブルの一つを陣取っており大皿が綺麗に積まれている。


わたしも初めて見る料理が多いので覚えきれるか不安ですね……」


 エディットの隣で椅子に腰掛けるルリーテはすでに食事を終えた様子で、紅石茶を片手に周りを見渡している。


「あたしのお腹がしっかり覚えているので安心してくださいっ素材名はよくわかりませんが!」


「そこが重要なのですが……」


 ルリーテが周りを見渡しているとエディット同様に、ドライとキーマも皿を綺麗に平らげては次の食事を確保しにいく姿が目に映る。

 滅多にありつけない食事ということで積極的に動く姿は、他の遠慮しがちな探求士とは明らかに存在感が違いよく目立つ。


 さらに目を移すとナディアがエステル同様に、案内種あんないにんに声を掛けられており、退出していく姿も目に入った。


「ナディア様も誰かお祝いにきたようですね」


「ナディアさんは出会った当初はともかく、深い仲になると種柄ひとがらの良さが伝わりますからね。こういう場面でお祝いしてくれるひともたくさんいそうな感じです」


 紅石茶を嗜むルリーテ、両手が常に料理を掴んでいるエディットは、少しだけ羨望の眼差しを向けている自分に気が付くと視線を戻した。


「それにしてもエステルさんも遅いですね。このような場なので心配することはなさそうですが、気になります」


「魔術学校のお知り合い等で話が盛り上がっているのかもしれないですね。まぁあまりに時間が掛かるようなら様子を見に行きましょう」


 フルーツを頬張りながら横目で視線を送るエディット。ルリーテも多少の心配はあるが、盛り上がりに水を差すようなことは避けてあげたい、というのが本音であろう。

 ルリーテは揺れる紅石茶に視線を落としながら、少しだけ口角を吊り上げていた。



◇◆

「なるほどね……だからセキもレヴィアと顔見知りなわけだ」


「そうね~でもなんだかんだでセキもあなたも竜と契約済なんてちょっと驚きよ? まぁ二種ふたりが精選でやり合ったっていうのも驚いたけど……男の意地は分からないでもないけど、いくら決闘申し込んだからって融通利かせなさいな」


 カグツチがレヴィアの胴体で首を絞められつつも、三名は木長椅子ベンチに座りお互いの事情を共有している真っ最中だった。

 セキとアドニスの初期の出会い、そして精選での再会と死闘の事情も話はするもののフィルレイアは呆れたように浅い嘆息をついた。


「それに南にくるならプリフィックうちのほうで……とも言ってあげたいけど、ちょっと新人さんたちには環境が厳しすぎるわね」


「ははっ。気持ちだけありがたくもらっておくよ。自分たちの力で進んでいきたいだろうしね」

『ピィッ!』


「僕のほうもセキと同様だね。でも何かあれば二種ふたりの力になるよ」


 フィルレイアの呟きに微笑を纏いつつも断りを入れる二種ふたり

 チピもセキに賛同するように羽を上げている様子だ。

 自分たちが力添えをしているとはいっても、やはり己が力で戦い抜いてほしいという願いも込められていることは表情にもよく表れていた。


「んっ! いい心構えだと思うわ。それに最近はなんだか魔獣の動きも活発なのよ。無理せずに足元をしっかり固めておくことをお勧めしたいわね」


「なんだか魔力の流れも異常だよね? 無関係とは思えないけど……」


 フィルレイアの言葉にアドニスも次いで思いを口に出す。

 セキは魔力のうねりや違いは自身の目で見る以外に知る方法がないため、二種ふたりの感想に耳を澄ませている状態だ。


「まぁいい心掛けじゃの。この魔力の濃度は魔獣の強さにも直結するからの。一段階、強力な魔獣ならそれ以上に強くなると思っておくんじゃの」


 カグツチがレヴィアの胴体を叩きタップしながら降参の意思を見せているが、意に介さず締め上げ続けるレヴィアが口を挟む。


 出会った当時の都合とは言え、自身との契約を拒んだセキがよりによって、同じ竜のカグツチと契約していることに怒りが収まらないのだろう。

 属性を考慮すれば文句は出るはずもないが、そんな理屈で納得するレヴィアではなかった。


「まぁ港町ハープ周辺は最初のうちは各国やギルドも護衛兵を置いてくれるから、そこで慣れてから動くのがいいんじゃないかしら?」


「おれが魔力じたいを感知できないからそういう情報は助かるよ。アドニスもフィアも……ましてやレヴィアまでそう言うんじゃ疑うほうがおかしいしね」


「そうだね。その代わり……と言えるものかわからないけど契約精霊も魔力を取り込みやすくなるからそこの利点を上手く活用したいところだね」


 立場や境遇は違えど、近い実力を持つ者同士だからこその気軽な会話。

 この古ぼけた街角に似合わぬ談笑の影で、カグツチは誰も自分に救いの手を差し伸べないことへの怒りに震えていた。

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