第104話 パーティーと祝辞
「すごい料理だね……」
「見たことない食材のほうが多いかもしれません……」
「立食って好きに食べ歩いていいんですよね? 行ってきます!」
真っ白な
あくまでも談笑のために用意されていることがわかる。
絢爛豪華な料理は会場の周りに設置されており、長めの
入口付近で直火で焼いている肉汁の香りが食欲を刺激し、対面側では姿造りで盛られた大魚は未だに生きているかのような鮮度を保っている。
また紅石茶や黒石茶も気軽に手に入るような石ではなく、香りと甘みが絶妙なバランスを保っている石を厳選していることが見て取れる。
さらに奥にはフルーツ類も完備されており、至れり尽くせりをまさに体現した会場となっていた。
すでに肉の前に大皿を持ったエディットが並んでおり、エステルとルリーテも皿を取りに行こうとした時、正面奥の壇上に
金色の髪をなびかせ歩くだけで周囲の視線を自然と集める。
「みなさん気楽に聞いて頂ければ大丈夫です。食事を止める必要はありません」
壇上に上がった男。イースレスが朗らかな笑みと共に喉を震わせた。
重要事項を喋るわけでもなく、今までであればギルドの役職持ちや、お喋り好きの貴族が行っていた祝辞のようなものである。
だが、喋る者が違えばここまで変わるものなのか、と前回を知る者は感じていた。
料理を置き誰もがイースレスに体を向けその一言一句に耳を傾けている。
それはエディットでさえ例外ではなかった。
(あの
エステルも料理を摘まむことを忘れ思わず見入っていると、入口の側から聞こえる声に思わず視線を向けた。
「ちっ……元々は頼まれたから、この俺がわざわざ用意をしてきてやったんだぞ……! それがどういうことだ!」
「エムスン卿……抑えてください。さすがにプリフィックのイースレスでは……」
華やかな刺繍、鮮やかな色彩に彩られた宮廷向けの紳士服に身を包んだ小太りの男が騒いでいる。
決して趣味が良いとは言えないが、高価なことだけは一目で伝わる指輪を付けた手を振り回しており、
だが焼石に水であることは一目瞭然だった。
「まぁまぁエムスン卿……こんなもんは聞き終わればあっという間に忘れるもんですよ……別室に貴賓室がありますし、そっちで少し寛ぎましょーや」
(ん~……嫌なところ見ちゃったなぁ……イメージ通りすぎるよ……)
エステルはその姿が入口の影に消えたことを確認すると浅く嘆息しつつ、気を取り直す。
そこで再度壇上に目を向けた時、すでにイースレスの祝辞が終わり拍手に答えている場面であった。
(ぐぅぅぅ……ちゃんとお話し聞きたかったのに……後でルリに聞いてみよっと)
心地よい緊張感から解放された探求士たちは各々用意された食事へと足を運ぶ。
エステルもサラダを取りに動こうとした時、声を掛けられて部屋を出ていく探求士に目が向いた。
声を掛けられた探求士は仲間と共に出ていく者もいれば、単独の者もおり、全ての探求士に声がかかっているわけではない様子だ。
そんなことを考えていると、
「エステル様でお間違えないでしょうか?」
背後から掛けられた声を肩を跳ねさせることとなる。
「えと、はい……そうですけど……」
エステルが振り向くとそこにいたのは給仕の男だった。
「エステル様へお祝いを伝えたいという方がお見えになっています。別室にてお会いする形になりますがよろしいでしょうか?」
「は……い。わたしは構いませんけど……」
すでに祝福を伝えてくれる可能性のある
そして給仕が扉を開け、その手を向けた先へと視線を向けた時だった。
「あっ……エステルちゃんおめでとうっ!」
少しアクセントに癖のある口調で祝いの言葉を受ける。
そこに居たのは日に当たると透けてみえるようなナチュラルブラウンの髪を持つ、ふっくらとした体型の女性だった。
丸みを帯びた頬を隠すように顎下までのミディアムボブ。
白を基調にしたドレス調の服装を身に纏っているが、これは章術士教会の礼装だ。
「――……えっ? ララさん……!?」
入口で目を皿のようにしながら立ち止まるエステルへララと呼ばれた女性は丸みを帯びた頬を緩め、慈愛溢れる笑みを向けていた。
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