第105話 懐かしき顔
「フィアってフィルレイア? 『
アドニスが思案するように首を傾げながら、セキへ横目を流している。
すると、フィルレイア
「あなたとは初めましてね。あなたの言う通り
フィルレイアはアドニスの巨躯に怯むことはなく、その目を弧の字に描きながら手を差しだした。
「失礼。僕はアドニス。セキとはちょっと昔の知り合いと言うところですね。ですが驚きましたよ。フィルレイアさんと知り合いとはね」
アドニスもセキへ送っていた視線を向け直すと、差し出された手に答え握り返す。
「堅苦しいのは止めましょ? 『フィア』でいいわ。
「ええ、もちろん」
アドニスはセキとの邂逅とはあまりにも異なる、落ち着いた対応でフィルレイアと力強く握手を結んだ。
そしてフィルレイアがゆっくりとセキに視線を向けると、勢いよく飛び込んでいく。
「も~! ひさびさじゃな~い! ぜんっぜんプリフィックにも顔出さないし~! でもこうやって精選のお手伝いしてたってことは目的は達成できたのよね?」
フィルレイアの双丘を鼻の下を伸ばしながら受け止めるセキ。
「いや~プリフィック行ったことないし遠いから……それと目的はそうだね……達成はできたかな。でも驚いたなぁ……すっかり馴染んでるしアドニスが警戒するほど魔力量も上がってるなんて……」
フィルレイアが抱擁を止め向き合うと、セキはやや残念そうな表情で受け答えにも力が入っていない状態である。
フィルレイアは指を立てながら、
「
セキの言葉に胸を弾ませている様子が見受けられた。
セキとフィルレイアの関係に面食らったアドニスだったが……
「あの話の腰を折って悪いんだけど……噂だとフィアは『
フィルレイアの魔力の印象についつい口を挟んでしまう。
その言葉にフィルレイアは頬を緩ませながらアドニスを見ると、その艶やかな唇を開いた。
「周りにはそういう体で通してるけど、やっぱり違いがわかるのね? あなたの想像通りで合ってるわよ?」
フィルレイアの発した言葉と共にふくよかな双丘の間が動き出す。
アドニスは納得がいったように頷いているが、セキはただただ下心で双丘を見つけ続けていると……
「セキ。久しいの。妾との契約を拒否して以来じゃのぉ?」
手の平サイズの蛇に似た精霊が顔を覗かせた。
蛇とは異なり羽を生やしているが
額にはカグツチやベヒーモスとは形や本数は異なるが、艶めかしく輝いた鋭い一本角を備えていた。
「あははっ! 相変わらずだなぁ……レヴィア」
「『
フィルレイアの谷間から浮き出ると体をくねくねと捩じらせながら、フィルレイアの頭の上へと移動する。
カグツチやベヒーモスと違い自由に飛べるようだ。
「遠慮はいらんのじゃ。妾の美貌を称えて良いぞ。それと『レヴィア』で良い」
「
堂々たる振る舞いのレヴィアは見る者に神々しいまでの威圧感を感じさせるある種の威厳を備えている。
契約者であるフィルレイアとの組み合わせは、互いが互いを高め合うような相乗効果をもたらしていることが一目で分かる組み合わせでもあった。
「それにしてもセキ……。ヒノだからこそ大目に見てやったんじゃがの。まさかベヒーモスを選ぶとはいい度胸じゃのお……久しいどころの年月ではないの~ベヒーモス……」
レヴィアはセキの肩までよじ登っていたベヒーモスに、殺気と共に視線を向ける。
その額には風貌に似合わぬ青筋が刻まれているが……
「レヴィアだ~ひさしぶりだ~……でも~おでは~セキと契約してない~……」
ベヒーモスはレヴィアの殺気を欠片も受け止める気はなく、気の抜けたような返事を返す。
するとさらにレヴィアの鋭い瞳がセキの頭の上で怯えるチピに向けられた。
「ほほぉ……
『ピッ!! チピピ!? チピチピッ!! チピーーーッ!!』
すぐさまチピは両の羽を交差させながら首を振る。
さらにその後に片羽を己の額に添え敬意を示しているあたり、不死鳥の威厳を備えるには時間が必要なのだろう。
「ぬ? どういうことじゃ……?」
チピの返事に疑問符を浮かべた時だった。
その背中に神々しさは欠片も居座ることはなく、心なしか肩を潜めているようにさえ見えた。
「ほほぉ……合点がいったぞ……これまた懐かしき顔じゃのお……カグツチ」
レヴィアの声に肩を跳ねさせると、カグツチは油が乾ききった歯車のようにぎこちなく首を向ける。
「う……うむ。久しいのぉ……レヴィア……」
挨拶を返しながらもカグツチの目はレヴィアを見据えることなく、明後日の方角を向けたままであった。
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