第97話 胸躍らせて
「おぉ……日差しが眩しい~……!」
「ほんの数日でしたが、数カ月ぶりのような感覚ですね……」
一同は精霊の誕生地の表層まで戻ってきていた。
十分な睡眠と念願の契約を果たした彼女たちの顔は、煌々と大地を照らす日光石にも見劣りすることはない輝きを宿している。
海岸へ降り立つと、
「その顔から察するに成功のようですね! あちらで
目を向けると数名の探求士が手続きをしている姿が見える。
傷だらけの体とは対照的に、いずれも頬を緩ませ、瞳の中に希望という光を宿し、見る者も釣られて口角を上げてしまうほどだ。
エステルたちも同様に手続きを済ませることとなるが、ナディアはギルドコインの枚数を、ドライは禍獣討伐素材を申告することはなかった。
「これで手続きは完了となります。実際の渡航は一カ月後、それまでに改めて各街のクエスト紹介所へ伝達を入れるので確認をお願いします。それまでは各々慣れ親しんだ地へ出発の挨拶に戻るも良し、これから始まる冒険のために準備をするも良しです。そして最後に……精霊との契約おめでとうございます!」
受付の騎士の力強い声に見送られエステルたちはその場を離れた。
十分に体の疲れはとってから戻ってきたことはたしかであるが、改めてこの精選を終えたことを意識した時、心の疲労が一斉に襲い掛かってくるものである。
天を仰ぎながら大きく息を吐き出すエステル。
死と隣り合わせの戦場であった誕生地に目を向けるルリーテ。
改めて相棒として冒険をすることになったチピと戯れるエディット。
口に手を添えて高らかに終わりを喜ぶナディア。
前回の精選を経てついに成し遂げた感動に胸を撫で下ろすキーマ。
今は亡き仲間たちを思うドライ。
今ここに短くも濃密な戦いが終わったことを、全員が実感したのだ。
気が抜けた面々に互いに視線を交差させるセキとアドニスは、昔の自分たちを思い浮かべているのだろうか。歯を見せながら肩を揺らす。
「それではみなさん! 次に会う時は
「みんなずっと気を張っていたから数日はゆっくり休んでね。それじゃ僕も次に会えることを楽しみにしているよ」
ナディアとアドニスが別れ際に再会の挨拶を唇へ乗せた。
「そうだな! ゆっくり休んで次に会う時はもう少しマシに見えるようにしないと! それじゃまた会おう!」
「その通りさね~……こいつらを故郷に送ったら……新しい相棒と共に南に向けて準備さねっ! じゃあっ! 再会を楽しみにしてるさね!」
ドライとキーマも意気込みと共に次を見据えた瞳を燃え上がらせている。
「みなさん怪我の経過が順調でも油断しないでくださいねっ! 次に会う時は万全な状態で会いましょうっ!」
「みなさんと共に過ごしたこの数日間で、
「南の大まかな説明できるようにしておくね! ギルド関連はみんなのほうが知ってるだろうし……一カ月後、また会おう!」
エディット、ルリーテ、セキも別れの挨拶を続け、
「みんな本当にありがとう! そして……わたしたちのこの冒険は絶対忘れないからっ!」
エステルがその瞳を潤ませながら発した言葉を皮切りに、互いに抱擁し激励を重ね合った。
背を向けながらも時折、振り返り手を振り、また手を振り返し名残惜しむようにゆっくりと歩く。
エステルはふと立ち止まり、両手を突き上げて大きく伸びをした。
頬を撫でる風は疲れた体を労うように優しく、そしてほのかに温かい。
見上げる空は、浮かれた心を祝うように快晴だ。
エステルは、ルリーテ、エディット、そしてセキが歩く姿を後ろから見つめる。
精選という大きな区切りを得て改めてエステルは実感していた。
仲間と共に幼き頃に夢みた景色を今、自分は確かに歩き始めている、そしてこれからも共に歩いて行ける。そんな事実を再認識するとふと八重歯を覗かせてしまった。
つい足を止めていると、前を歩く
長年の夢の第一歩を踏み出した少女は、すでにこれから始まる冒険に胸を躍らせながら、仲間の元へと駆け出して行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます