第66話 挑戦の心構え
「それじゃ状況を整理しよう……」
セキとの集合場所である大木の根本に腰を落ち着けたエステルたちは、改めて顔を突き合わせ予想外のこの状況の指針を探ろうとしていた。
先ほどの魔道管と属性については、
根本の芝生に腰を下ろしじっくりとお互いの顔を見合わせた。
「まずはやはりメダルでしょう。前回の精選ではこのようなお話はなかったはずなので、今回からなのでしょうし……」
「その通りだと思います。ワッツさんからもキーマさんたちからもそのような話をあたしも聞いたことはなかったので!」
話の切り口を示したのはルリーテだった。まだ時間に猶予があるとはいえ、この重要な話を浮かせたままでは、他の話をしても上の空となることは目に見えている。ルリーテの言葉にエディットも賛同するように話の流れに便乗していた。
「うん。わたしもそこを話したかった。今まで公開しなかったのは新人探求士以外もこれを目当てに紛れ込んでくるからってことなのかなぁ……」
「その可能性もあるとは思いますね……気になったのはあのハーヴィの連れ共は南で活動している探求士なのですよね? 先程の説明で初めて知りましたが、すでに南で探求士としての活動実績がある場合は参加不可能とのことなので今頃泣き叫んでいるのではないしょうか?」
「う~ん……どうなのかなぁ……
エステルは大きく頷きながら疑問を口にする。事前に情報が流れた場合、それこそ始まりの段階で紛れ込もうとする輩たちを弾く労力が必要となるため、ある程度納得できるタイミングではある。
ルリーテ、エディットも答えがわからずともエステルが示した方向性に概ね納得している様子だった。
そしてギルドメダル同様に初耳だったのが、
これに関しては今回ギルドメダルの争奪戦が行われるため、特例として設定したものであると
元々
「まぁ考えるとイライラするからこの辺にしておこうか。それにルリが一番気になったのは『プリフィック国』でしょ……? 憧れだもんね。騎士団のフィルレイアさん」
「あ、あの……それは……その……その通りなのですが……」
エステルはギルドメダルの話題は続けつつも、メダル特典である居住権へ話題の切り替えを試みた。
それは精選管理国の中にルリーテの心を揺さぶる国の名前が出ていたからである。
あの探求士たちの熱狂を生み出した、プリフィック国の騎士団に所属する魔術士にルリーテが強い憧れ、尊敬の念を抱いていることをエステルは昔から十分に把握していたためであった。
「フィルレイアさんって騎士団の団長さんに次ぐ方のことですよね?」
「そうです……女性の身でありながらその膨大な魔力と魔術センスで騎士団を駆け上がった偉大な魔術士様です」
エディットの問いに誇らしげに答えるルリーテ。どこのどのような場面を思い浮かべているかは定かではないが、そっと胸に手を置きながら視線がどこか上擦っている様子だ。
「よく魔術三傑としてお話に出ますよね……海のように膨大な魔力量は団長をも遥かに凌ぐと言われる『
エディットは雲を掴み取ろうとするかのごとく、いかにも実感が湧かないというように自身の知りうる情報を大きな息と共に吐きだしていた。
憧れを持つ、持たないに関わらず探求士として活動をしていれば、嫌でも一度は耳にすることとなる二つ名を並べて気力を失っていた。
「あはっ。クレールさんも女性って話だけど、フィルレイアさんは騎士団に入団した際に当時の副団長に実力を示して……ううん、倒して入団したっていう衝撃のエピソードでルリ夢中だったもんね~?」
「それは……まだ子供の頃だったので……同じ女として誇らしかったというか……このような強い女性になりたいと……」
エステルは昔を思い出しているのか、八重歯を覗かせながら和らいだ目を向ける。ルリーテは照れているのかほんのりと色づく頬を隠すように俯き気味に呟いた。
「そういう意味でいうとエステルさんはやはり『ランパーブ国』でしょうか? 章術士の教会本部もあそこですよね?」
「うん。それはその通りなんだけど……わたしが通ってた学校は教会直轄の有償学校じゃなくて無償の魔術学校だったから……ほらっ教会上位の章術士の話ってなかなか外部に流れてこないっていうでしょ? だから憧れとか想像ができなくて……」
魔術師としての憧れを抱くルリーテに対して、エステルにも同様の理由で胸に秘めた憧れを問うも、章術士教会の制度的な面でそのような想いを持つことが困難であることを告げられたエディット。
エステルは膝の上で遊ばせている指先に視線を落としながら続けた。
「それに
「目的はあくまでも精霊との契約ですからね。むざむざメダルを放棄する必要はないと思いますが、方針としてはエステル様に賛成です」
「はいっ! まぁあたしたちが他の方に挑むって正直卑怯ですよね。セキさんいるわけですし……」
突然告げられた願ってもない支援内容に心が揺れていたことは確かな事実である。
だが、その支援内容を受けるには自身の力ではなく、セキの力が必要というよりもセキだけに負担をかけることになることは明白である。
精選誕生地の魔獣相手のように共に戦えるならいざ知らず、不慣れな対探求士では今の自分たちではセキに守られるだけの存在になることも自覚していた。
そのような偏った歪な関係はエステルが嫌う関係性でもある以上、当初の目的である精霊との契約に集中するべきだ、というのがエステルの考えであった。
それはルリーテもエディットも遠からず似たような考えを持っていたようで快諾を得ることとなった。
「うん……それもある。それに内部でもなるべくわたしたちの力で切り抜けたいよね……だって精霊と契約するのはわたしたち自身。そういう姿もきっと精霊は見てると思うんだ……。だからこのことはセキにもちゃんと話して納得してもらおうと思う」
膝の上で遊ばせていた指が知らず知らずのうちに固く握りしめられていた。
今はまだ遠すぎるセキの背中だが、一歩ずつでも近づくために頼ってばかりではそれも叶わないと考えるエステルの声は、引き締めた表情に見合う芯の通ったはっきりとした意志としてルリーテとエディットの心を貫いた。
「はい。この精選までの期間だけでも、様々な戦闘の指導を頂いた以上、その成果を見て頂きたいです。右手もやっと完治したことですし、魔獣たちに遅れはとりません……!」
「いいですね~! あたしもワッツさんたちに自信を持って報告ができるような挑戦にしたいので異議なしですっ」
エステルの意思を正面から受け止めたその表情に不安の色は見えない。
自分の実力でどこまで進めるのか、そして精霊に認められることができるのか試したいという挑戦者の顔そのものを見せていた。
その頃、大木の上で他の探求士を眺めていたセキには全ての会話が筒抜けであった。
途中で降りる機会を探るつもりではあったが、話の流れを切ることも忍びない。
わざわざ離れた場所へと跳び下り、あたかも今歩いてきたというように見せる程度の気遣いは許されるであろう。
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