第22話 戦闘開始
「精選で船が少ないだけあって少し魔獣も多いわね。精霊の誕生地にも集まるから海はもしかしたら少ないかもって期待もしてたんだけど……」
探知魔術で魔獣の位置を見ているクリルが呟く。
クリルの前に展開した
「今日の護衛は俺たちだけだ。騎士団も他の星団もいないから気を引き締めよう!」
各々が気を引き締める中セキも船上戦闘の準備に取り掛かる。
船員に帆用の長いロープを借りマストの根元に巻き付けているその時クリルが探知魔術の
「みんな気を付けて! 南側から二匹! こっちに向かってきてる。魔力の大きさからして『
クリルの注意に護衛のセキたちはもちろん船員や行商にも緊張が走る。
戦闘に関して問題が起きるのは幾度の戦闘ですっかり慣れた頃に気の緩みから発生する場合と初戦闘での発生がとりわけ多くなっている。
そのことを認識している面々は自然と気を引き締めるために武器を握りしめる手にも力が込められていた。
「距離が離れているな……連携しているわけではなさそうだ……一匹は俺が迎え撃つ! もう一匹をセキ頼めるか!」
ブラウはクリルの魔獣接近の合図を受け、迎撃の指示を出す。
「わかった! 向かって右側のやつをおれが仕留めるよ!」
セキの返事を受けブラウも迎撃態勢を整える。ブラウの後ろではゴルドも控えており同様に迎撃する構えを見せている。そして
そこに唯一祝福精霊を持つゴルドも戦闘態勢へ移行するために降霊詩を詠む。
「〈豊穣なる土よ 祝福と成れ〉――」
ゴルドの体の周りに魔力の膜が形成されていく。その時、セキの瞳にはゴルドの背後に浮かぶ『
その姿は、一般的な
(う~ん……家系の都合で契約って言ってたけどゴルドの精霊として雰囲気がぴったりハマってるなぁ……でも、ゴルドはもっとかっこいい姿想像してるんだろうなぁ……)
降霊をする瞬間、精霊は
しかし、術者の魔力が相応に満たないうちは、その姿は術者自身でも確認することができない。
はっきりと見えているセキが特殊なだけであり、ゴルド自身もまだ
「俺が相手の出鼻を挫く! いくぞ!! 〈
ブラウの突き出した左手から手の平より二回りほど大きい火の塊が放出され突き進んでくる
勢いを殺された
「くるぞ!! セキ! ゴルド! やつの牙に注意しつつ迎撃だ!」
ブラウの掛け声に船上に留まっている全ての視線が水面から飛び出してきた
一匹目の
だが、構えることすらせず散歩をしているかのように歩くセキと
次の瞬間にその長い体は細切れとなり船上の強風に煽られながらその身を海に還すこととなった。
「――えっ?」
細切れにしたのはもちろんセキだが想像していない者にとっては理解するのに時間を要するほど一瞬の出来事だった。そしてもう一匹の
「――あ! ブラウ! ぼーっとしてないで!! 〈
まさかの仲間に意表をつかれて船上に乗せてしまったがいち早くゴルドが魔術を唱えるとゴルドの
淡い光が手の平に移ると同時に岩の塊が放出されブラウに飛びかかろうとしていた
「――す、すまん、ゴルド! 助かった、後は任せろ!」
ゴルドが魔術で気を引いた瞬間にブラウが剣を握り直し飛びかかる。反応が遅れた
『ギッ!!! ギィィィ…………』
「右の細切れはセキ……だよね?」
ブラウは恐る恐るセキに尋ねる。セキは
「うん、おれは飛び道具が乏しいからね……一応飛び出せるようにこうやって
指に挟みこんでいたものと両腿に収納している
「故郷の湖とかでも似たようなことやってたからさ。おれの場合、近接が主体だから船上だとこんな感じで戦わないといけないんだ」
セキの説明にブラウはもちろんのこと他の面々も同じ感想を抱いている。ロープを持っている理由を聞きたいと思っている者は
海中から飛び出してきた
セキが船上の
そんな状況でもセキが
「いやいや……ガサツさんに後で何かお礼をしないといけないようだ……探求士最高峰の
行商たちを船内へ避難させた後、船上で魔獣との戦闘に備えていた船長が言葉を漏らすとセキは照れながら返事をする。
あまりセキは素直に褒められることに慣れていないことが見ている者にも分かりやすく表情を緩めて頭をかいている。
「いやぁ……でも油断は禁物ですよ、船長。おれの場合さっきも言った通り遠距離と探知は苦手なので……」
「探知は任せておいてよー! 潜って近づいてきてもちゃんと探知できるんだからねー!」
セキの言葉にクリルが
「ああ、そこは頼りにさせてもらうよクリル。それと今の戦闘で思ったけどゴルドが癒術士って言ってたけどやっぱり
先程の戦闘で浮かんだ素朴な疑問を口にする。セキの各職に対する認識は間違っているわけではないが、パーティ戦闘の経験があまりにも不足しているため確認の意味も含めて問いかける。
今まで冒険を共にしたセキの力量に見合う、または足手まといなりに戦えるレベルの探求士たちがなまじ職の枠を超えた実力者ばかりであったばかりに実際のパーティ戦闘は役割や魔術もできるできないがもっとはっきり別れているのが普通なのかの判断ができていないことは事実であった。
「あくまでも補助的な魔術で相手に致命傷を負わせるものではないですけどね。癒術士はたしかにパーティの回復役を担っていますがそれはあくまでもメンバーが負傷した時ですね」
セキが熱心に聞いているとさらにゴルドは警戒は続けながらも癒術士の戦闘時の動きについて補足する。
「普段の戦闘の時は今のように攻撃魔術で前衛を
ゴルドの説明にセキは頷く。セキの思っていた癒術士のイメージとはかなり違ったようで回復役以外にも
「前に出られすぎても困るのであくまでも前衛の後ろでって感じが多いかもしれないな。だから戦闘中も回りを見て戦況を判断することも多いって感じさ。章術士がいるとそういう指示は章術士が担うことが多いんだが、俺たちはこの
先ほどまで何度も何度もセキの太刀筋を理解しようと頭の中で場面を再生していたブラウも我に返り、パーティ戦闘での癒術士の位置取りや役割についてアドバイスが飛んでくる。
「
(婆ちゃんも癒術士だよな……一応職分類的には……やっぱあんな前衛職ばりに出て、魔術乱発するのはおかしいってことじゃないか……ったく……)
セキはブラウたちの丁寧な説明を受けつつも今まで自身の強さばかりに目を向け、そういった知識を積極的に取り入れてこなかったことを少し後悔していた。
「みんな気を抜かないでね! まだまだ来るみたいよ! 西から五匹、東から二匹よ!」
「ブラウ、おれが西をやるよ!」
「助かる! 東は任せてくれ! ゴルドサポート頼む!」
「うん、了解!」
クリルの掛け声にセキたちの意識が魔獣に向けられ本格的に護衛としての時間が始まろうとしていた。
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