第20話 竜の約束

 ガサツ夫婦の好意でセキはふかふかの寝台ベッドで朝を迎えた。

 野宿が多かったセキは必然的に大地に寝ることが多かったため、このように気を抜いて寝るという行為じたいが久しい。

 また、野宿をする時は背中の刀を抱えていたため横になって寝れるというだけでもセキにとってはありがたいことだった。

 もちろん今も手の届く範囲に刀は置いているが。


 日差しがセキの顔を優しく照らし始めると自然とセキは目を覚ます――

  

「こんなにのんびり寝れたのはひさびさだなぁ……野宿も慣れたもんだけどこのふかふか具合は疲れも吹き飛ばしてくれるよな……よかったなカグツチ?」


 セキが語り掛けるも反応がない。姿もない。

 昨晩リルに抱かれ虚無の目をセキに向けていたカグツチを思い出しそれ以上考えることは止め顔を洗うことにした。


「お~! 起こしてやろうかと思ってたが早起きだなぁ!」

「おはよう、早起きさんなのね~今朝食を用意してるからね~?」


 部屋から出るとダイニングにはすでにガサツとセラが起きていた。

 漁師の朝は早い。


「あ、おはようございます。すごいぐっすり眠れました……ありがとうございます」


 お礼の言葉にガサツはにんまりと笑いセラは優しい笑顔をもって答える。

 セラに洗面所に案内され冷たい水で顔を洗い気持ちを引き締めた後、改めてダイニングに戻るとガサツが口を開く。


「さっきちょっくら商船の連中に話つけてきたぜ! もちろん乗船OKだってよ!」


 今でさえ日光石の明かりが差し出した時間にも関わらず、すでにガサツは港まで行き話をつけていた。

 ガサツにとってはこの時間はすでに行動していて当然な時間、ということが伺えるような当たり前のような報告。


「えっ! もう話をしてきてくれたんですか……? とても助かります……」


 セキはお礼をいいながら木円卓テーブルにつきセラの用意してくれた朝食を眺める。

 普段は朝食などとらないか前日の獲物の肉の残りを食べるくらいのセキにとってセラの用意した朝食は日光石の光に負けないほどの輝きを放っている。

 すぐに朝食に手が伸びず座ったままそのこみ上げてくる感慨に浸っている。


「いいってことよ! それでな、ちょっと聞いた感じだと商船のやつらも直接向かう気はあるんだが、どうも『精選』の影響で護衛が数を集められてねえみてえなんだ」


 食べながらガサツの言葉に耳を傾ける。『護衛』という言葉に昨日通った陸路同様、海路もやはり安全というわけではないということを認識するセキ。


「だから、安全に行くために海岸線沿いを進もうって話なんだがな……それだと時間がかかっちまう……」


 セキはガサツの言葉に食事の手を止める。

 ここに来る前にも言っていたようにどこも種手ひとで不足の時期なのだろう、セキは食べていた朝食を飲み込むと説明をするガサツに顔を向ける。


「えっと……ここから東にかけて出てくる海の魔獣は昨日の巨蛸ジャイアントオクトパスとか海錦蛇シーパイソンとかですよね? それなら最短ルートで進んでもらって大丈夫ですよ。レヴィア……――いや、大海の覇者リヴァイアサンでも出るなら話は別ですけど……」


 セキの話を聞くと思った通りの反応だったのかガサツは手に持っていたカップをテーブルに置き天井を仰ぐように笑いだす。


「がははっ! やっぱお前ならそういうと思ったぜ! 昨日の巨蛸ジャイアントオクトパスの足を輪切りにした時もしれっとこなしてたからなぁ! なーに安心しろ! そう思ってやつらにお前の話をして護衛も兼ねてもらうってことになってるからな! おっと大海の覇者リヴァイアサンが出たら逃げろってのは伝えておかねえとな!」


 あっさり乗船できた理由を知りセキは納得の表情を浮かべる。

 護衛として乗船する場合、探知に支障があるセキだが護衛の中で一種ひとり魔術士がいれば探知系の魔術があるだろう、という考えも持っている。

 セキにとって問題は探知できない状態で海から上がってこずに船だけを標的とされた場合であり、目視または船に乗り込んでくるのなら何も支障はない。

 セラの用意したセキにとっては眩いばかりの朝食を食べ終えるとガサツが出掛ける準備に取りかかり始める。


「ちょっと商船連中に今の話を伝えてくらぁ! お前は準備して待っててくれよな!」


 セキはガサツの声に頷き返すと刀を身に着け手荷物である筒状の荷物入れを手に取り片手で背負う。

 するとセラがおもむろに近づいてくる。


「はい、セキくん。日持ちするものにしてあるけどなるべく早く食べるようにね~」


 セラが包みをセキに手渡してくる。どこからどう見ても道中で食べるためのお弁当だ。


「えっ……! そんな悪いですよ。昨日も今朝もご馳走になっているのに」

「あら~そんな水臭いことを言うもんじゃないのよ~はい、ど~ぞ」


 遠慮がちなセキの胸にセラはお弁当をぽんと押し付ける。

 頭をかきながら受け取ると片手で背負っていたバッグを床に置き大事そうに弁当を収納する。


(これは何があっても揺らしたりしない……というか触れさせない……)


「す、すいません……道中で頂きます……」

「はい。カグツチちゃんがリルに捕まりっぱなしだし朝食分も入れてあるから味わって食べてね~」


 ほがらかな笑みで世話を焼いてくれるセラを相手にするとどうしてもセキは照れてしまう。

 ひととの接点が近年極端に少なかったこともあり必要以上に意識してしまい戸惑いを隠せない様子である。


(おかしいよ神様……どうしてこんな素敵な女性があのおっちゃんとくっつくの?)


「あっそうだ! 助けたお礼とはいえ頂いてばかりもあれなので――」


 セキは腰の布袋をごそごそと探り南大陸バルバトスで戦った際に手に入れた魔獣の爪の欠片と羽を取り出す。

 このような状況になるのなら直前に討伐した魂喰亡獣ケルベロスの素材も丸投げで渡すべきではなかったと心の中で盛大に悔やみつつ、


「こっちでも魔具を使ってるようなのでこれを……ちょっと討伐の後に大きすぎて仲間を呼びに目を離したら他の魔獣に喰われちゃったのか、それとも凝縮して飛ばされちゃったのか、死体がなくなっちゃってたので最初にとっておいた欠片と羽の一部ですけど……」


 そういってセキは『爪の欠片』と『羽の一部』を渡す。歪で禍々しい形ではあるがそれ相応の魔力がこもっている証明でもある。


「あら、この魔獣の爪すごい形ね~? でも助かるわ~ありがとうね~」


 うれしそうに爪の欠片を受け取る。

 セラは見た目通り魔獣素材には詳しくないが純粋にセキの気持ちがうれしいということが伝わってくる。


「獅子の頭とかしてましたけど翼は四枚くらい生えていたので風の魔力がとれる? ……かと。無駄に禍々しい魔獣だったんでそこそこ使えるのではと思います。魔具なのでそこまで爪や羽の属性も関係ないでしょうし」

「は~い、それじゃお父さんの船の魔具もぼろぼろになってきたし言ってみるわね~」

「ええ、ぜひ使ってください。ちょっとその魔獣の名前がわからないので鑑定してもらってからがいいかな……。今の魔具と合わないようなら売りにだしてそれで新しいのを購入するとかでもいいと思うので」


 セキは狩りで得た爪や牙、眼等のいわゆる魔具の素材を売りに出したことがない。故郷の村ならそのまま爪や牙を加工してくれる職種しょくにんがいたからだ。

 いまいちセキは魔獣素材の価値がわかっていないしどんな魔獣かは覚えていても、よく出会う魔獣でない限りは名前も覚えていないことが多い。

 名前は知る機会があれば覚えればいいと思っており、自身が強くなるために何より大事なのは強大な相手との実戦経験だと考えているからだ。

 名前を知らずとも経験した強さは確実にセキの身体に刻み込まれており忘れることもない。


 この魔獣はカグツチと出合ってから戦った魔獣の中では一、二を争う魔獣であり持っていた部位にも少し愛着があった。

 だが、それでセラが喜んでくれているならうれしいという思いがあり昨晩就寝前にお礼として提供することに決めていた。


「それじゃそろそろ出発よね? いいかげんリルからカグツチちゃんを助けてあげないといけないわね~」


 セラの口調からしてカグツチが虚無の目をしていたことを気が付いていたようだ。

 セラがリルの部屋へ向かう間にセキは刀を背負い直し両腰に小太刀を付け準備を整える。


「ん~! 流れとはいえ好意に甘えさせてもらってよかった。こんなにのんびりした朝はひさしぶりだったなぁ……」

「我の犠牲の上に成り立ったことを忘れるでない」


 両腕を突き上げて伸びをしていたセキの背後から負の気配に満ちた声が聞こえる。

 そこには憔悴したカグツチがセラの胸元に抱かれていた。


「おはようカグツチ」

「昨晩見殺しにしたはずの我が生きていることに驚きを隠せんようだな」


 捕獲されリルが疲れて眠りにつくまでそうとうの屈辱を味わった様子が見て取れる。

 セラはお弁当にカグツチ分も包んでくれていたがまだガサツも戻らないようで手際よくカグツチの朝食を木円卓テーブルに用意する。


「うむ……昨日の刺身もうまかったがこちらも上手いの」


 カグツチは満足そうに朝食を頬張っている。干からびていたはずの顔が潤いで満たされていくかのように生き生きとした表情が戻ってくる。


「よかったわ~セキくんにお弁当を渡したからそれも味わってね~」

「おぉ……それは素晴らしいの……」


 カグツチは普段のセキが作る食事に飽きていたようだ。刺身もそれほど変わるものではないと思うのだが重要なのはきっと作るひとなんだろうな、とセキは納得する。

 カグツチがもくもくと頬張っていると先ほどセキが渡した爪の欠片に目を止める。


「ん? これはセキのやつかの?」

「ああ、お弁当まで作ってもらっちゃったからな。せめてものお礼ってことで」


 カグツチはなるほどという雰囲気で爪の欠片をじっと見ている。

 すると、おもむろに自分の尻尾に手を伸ばし鱗を一枚剥ぐ……そのまま手に持っているとほのかに鱗が赤みがかり幻想的な紅光が溢れ出す。

 半精霊体であるカグツチの体から離れても鱗が散体しないように魔力を込めたということだ。


「セラよ……これをリルに」


 そういってカグツチの小さな鱗をセラに差し出す。


「あ~カグツチちゃん痛くないの~? リルのためにありがとうね~きっと喜ぶわ~」


 カグツチの小さな鱗をセラはそっと指先に乗せて受け取る。


「お守りとして持たせてやるがよいかの」


 はい、と笑顔で頷くセラを見てカグツチも満足気に頷きを返していると声がけをしたガサツが戻ってくる。


「おっ! カグツチも起きてたか! すまねえな~リルがあんなに喜ぶなんて思ってもいなくてな~世話してもらって助かったぜ!」

「ファファファッ……我にしてみれば造作もなきことよ……」


 セキは屈辱をどれだけ受けても姿勢スタンスを崩さないカグツチの強さに遠くを見ていることしかできない。ある意味これが絶対的強者の風格というものか、と勘違いをしてしまうほどである。


「よし、それじゃ~出発といくか!」

「ええ、ほんとお世話になりました。行きましょう!」


 ガサツの出発の声でカグツチがセキの頭に乗り家の扉をくぐる。

 すると奥の部屋からとたとたと走る可愛い足音が響いてきた。その足音の主はもちろん寝ぼけまなこのリルだ。


「セキお兄ちゃん、カグツチちゃん……また会える……よね?」

「うん、もちろん! 帰りに寄るかも?」

「うむ、リルがいい子にしていればまたすぐに会えるかの」


 リルとのやりとりをセラはにこにこしながら見守っている。


「うん! わかった! 絶対だよ!」

「ファファッ……我が約束を破るはずがなかろ。それでは行ってくるからの」

「うん!」


 リルとカグツチが囁かな約束を交わし。


「よ~しそれじゃ商船のやつらにセキたちを紹介してくるからよ!」

「気を付けていってらっしゃい~」

「ええ、行ってきます」


 二種ふたりと一匹は港に向かい歩きだす。リルと約束を交わしたカグツチは一生懸命に手を振るリルを優しい顔で見つめていた――



◇◆

 ガサツたちが港に着くとそこには大型の商船と行商、船員、それに護衛だろうか武具を携える者たちが集まっていた。


「お~! こいつらがさっき言ってたセキだ! よろしく頼むぜ!」


 ガサツが港にいる行商たちに声をかける。カグツチは不特定多数がいる状況を察し、港に来る前にセキの胸の衣嚢ポケットに収まっていた。


「お、こちらこそ頼むよ! ガサツさんが危ないところを助けてもらったそうで。私は一応この航海で船長を任されている者だ。よろしくな」


 ガサツよりも年下に見えるが船長というだけあり貫禄を感じさせる佇まいをしている。

 差し出された手にセキはがっちりと握手を交わす。


「ええ、こちらこそ突然の乗船を快く受け入れてもらい助かりました」


 船長と握手を交わしているとそこに護衛と思われる男も挨拶にくる。


「やぁ初めまして。主に南大陸バルバトスで探求士をやってる『ブラウ』というものだ、探求士ランク本葉トゥーラだ! よろしく頼むよ!」

「こちらこそ初めまして。おれも南大陸バルバトスで活動してたんだ。名前はセキ」


 爽やかな笑顔に茶色の髪、身長は百八十CRセノルほど、年齢はセキよりもやや上だろうか、二十代半ばに見える。

 腰に片手半剣バスタードソードを差し銀色の軽鎧ライトアーマーという姿。その装備と雰囲気から剣術士ということが伺える。

 ブラウの爽やかな挨拶につられセキも心なしか表情が和らいでいる。

 セキの見立てでは巨蛸ジャイアントオクトパスレベルなら問題なく対処できそうに見える。


「何よーブラウ! 自分だけ挨拶しに行っちゃってーあたしは『クリル』。よろしくね?」


 クリルと名のる女性は片手に魔杖ワンドを持ち、青い頭巾フード付きの法衣ローブを纏っている。

 装備からして魔術士そのもの、栗色の髪に同色のくりくりした瞳、身長は百六十CRセノルほどでセキよりちょっと小さいくらいの身長だ。

 セキは魔術はそこまで詳しくないので初見ではいまいち実力が見えない。

 ――だが可愛い。一瞬爽やか茶髪を海に放り投げようかと思ったがひとの目もあるのでセキは鋼の精神を発揮し踏み止まっていた。


「僕は『ゴルド』、航海の間という短い期間ですけどよろしくお願いしますね」


 いつの間にかブラウの隣に立っていたゴルド。名前が強い。

 金髪に金眼という派手な見た目と強靭な名前だが言葉使いがとても丁寧で物腰柔らかな印象を受ける。

 身長は百七十CRセノルくらいでセキよりもやや背が高くどちらかというと探求士としては線が細い。

 こちらも魔術士または癒術士だろうか、といまいち魔術系に疎いセキには予想がしずらいものであった。

 腰に携えている武器は鎚矛メイスだが、とても前衛系には見えない。

 黒のカソックにショートケープのような外套を肩に羽織っている。


 三種さんにんの雰囲気からして長く組んでいるパーティもしくは星団なのか、そんな雰囲気が見てるだけでセキに伝わってくる。

 そこにブラウからセキに質問が――


「俺たちは護衛として乗船することになる。なので一緒に戦う仲間がどの程度か知っておくことも必要だと思っている。差し支えなければ探求士ランクを聞いておいてもいいだろうか? 後の二種ふたりも俺同様に本葉トゥーラ級の探求士だ」


 たしかに一緒に戦う者どうしの力量を図るには何か指標を示すほうが都合がいい、とセキも分かってはいる。だが――


「えっと……探求士ランクってどうやったらわかるのかな……? そういうのを知らなくて……」


 セキは正直に答える。田舎者丸出しの質問だとは分かっていても聞かないと話が進まないということがわかっている以上、やむなしという選択である。


「おお、そうだったのか。それはすまない。探求士ランクは『探求士ギルド』に登録し魔獣退治等の貢献をすることでランクが上がっていく仕組みなんだ。ということはセキはギルドに登録はしていないのか?」

「その通りで……南大陸バルバトスで魔獣と戦いはしてたんだけど栄えてる西側じゃなくておれの故郷が東側にあって……そういう仕組みを気にしたことがなくて。ギルドに登録というのも今初めて知った……あ、でも巨蛸ジャイアントオクトパスとかそういうのなら問題なく倒せるというか……」


 戦闘時とは打って変わって自信がなさそうに返事をするセキ。

  

「えー! セキってば東側を拠点に冒険してたの?」


 クリルが驚きながら聞いてくる。


「拠点にしていたというか……生まれがそっちだったので必然的にそうなったというか……」


 一緒に戦う以上、戦力情報の共有は有効な手段だ。

 それが相手にうまく伝えられないセキはばつが悪そうに答えるが、三種さんにんはどちらかというとそんなことはどうでもよく拠点が東ということに驚いている。


「でも東側っていっても北東寄りの行動が多かったから、獰猛な魔獣が多い南側はそんなには行ったことがないかな……。大陸の北東から南西に掛けて大きな崖? おれたちは『大断崖』って言ってるんだけど、そこから東に行った先の湖の周辺に村があったからそこらをうろうろしていることが多かったかも……?」

あたしたちなんて南大陸バルバトスに進出してからランパーブ周辺しか行ってないのにー! 幻域探索だって行きたいのにー!」


 セキの言葉にクリルが反応する。

 両手を自身の前で握りしめながらぶんぶんと上下に振り図らずも一緒に豊満な胸も一緒に揺れていた。

 ランパーブはセキが出発した港町ハープから見て西に位置する中立の立場が強い国家である。ギルド本部もこの国に設立されており南大陸バルバトスに進出した探求士たちはまずここを拠点として行動することが多い。


「でもそれなら探求士ランクはわからずとも僕たちより頼りになりそうですね。というか東側ってひと住めたんですね……」

「一緒に頑張ろうじゃないか! そもそも南出身の探求士ならたしかにギルドの登録がなくとも問題ないだろうしな。『精選』の参加資格として登録が必要とはいえすでに南で活動しているセキには関係のない話だ。星団の入団や創設で必要になったら登録でもいいしな!」


 ブラウの言葉がセキの中で引っかかる。

 今関係ないとはいえ、ゆくゆくは精選を見据えているセキには必要な情報だと判断する。


「え、『精選』の参加資格ってどういうこと?」

「ああ、それはですね。誰でも『精選』に参加できる時代もあって、その時代も契約を結べないくらいならまだいいのですが……」


 ゴルドは少し言葉に詰まりながらも話を続ける――


「生まれたばかりの精霊に興味をもたれても適正があまりになくて火の精霊がきたら身体が耐え切れずに燃えてしまうひとや、水の精霊適正がなく全身の水分が垂れ流れてしまったひとたちもいたんです……。そこでギルドは最低限、探求士として活動しているひとだけしか精選は参加できないように制限をしてそういう悲劇を少しでも減らそうとしているんですよ」


 セキの質問にゴルドは丁寧に答えを示してくれる。

 セキはフィアたちと冒険している際にも南大陸バルバトスで町に行く時はあったがこういう状況だと大抵見下すような発言をするやつがいるものだ。

 だがこの三種さんにんはそんな素振りを見せず真摯に対応してくれていることにセキは感謝していた。


「ようするにギルドに登録しないと精選に参加できない?」

「その通りだ! 何か不都合でもあるのか?」


 セキが首を傾げながらゴルドの説明を自分なりに解釈した結果を口にするとブラウがセキに問いかける。


「えっと、たぶんこれから一緒に冒険をする子が精選に参加して加護を受けるはずなんだ……なのでおれもそれに付き添おうと思ってるから、参加できないと困る……かも?」

「それなら東に行った際に登録しちゃえばいいんじゃない? 登録じたいはどこの大陸でも探求士ギルド関連の斡旋所とかクエストの窓口があるのよ。今までの経験とかも聞かれたりするけど南にいたんでしょ? それなら登録に問題ない気もするわ。あ、でも最近精選でドタバタしてるしすぐに級証もらえないかも……?」


 クリルはふくよかな胸に付けている級証を摘まんでセキに見せる。

 その級証には『本葉の模様』が刻まれている。

 だが、どちらかというとセキは胸のほうに視線が集中している。


「Fくらい――間違えた。なるほど、そうだったんだ……今回の精選で必要かもしれないのにちょっと困ったな……」


 セキは行けばなんとかなるだろうとタカをくくっていた自分の首を絞めてやりたくなる。

 そして丁寧に説明してもらっているのに他のことに気を取られている自分は褒めてあげたくなっている。


「よかったら、後であたしたちが推薦状書くわよ? そうすれば少しは手続きがスムーズになるかもしれないしね。こうやって一緒の船に乗ったのも何かの縁だし普段ならすぐに登録なんてできるんですもの。セキがどのくらいの実力かは知らないけど巨蛸ジャイアントオクトパス倒せる子ならギルドだって大歓迎よ。二種ふたりもいいでしょ?」


 クリルの問いかけにブラウもゴルドも笑顔で頷く。


「それはすごい助かるよ……ありがとう!」

「いやいや、そんな大層なことじゃないさ! それじゃそろそろ出発のようだし船に乗り込もう!」


 三種さんにんは意気揚々と船に乗り込んでいく。セキも船に乗り込むと見送りをしてくれているガサツにお礼の言葉を投げかける。


「船の手配ありがとうございました! 漁をするにも魔獣に気を付けてくださいね!」


 セキの言葉を受けガサツが手を振りながら答える。


「おうよ! 次は倒して刺身にしてやるぜ!」


 反省はしていないようだ。そこに胸の衣嚢ポケットにおとなしく収まっていたカグツチもひょっこり顔を出し小さな手を降っている。


「それじゃー船員のみんなそして護衛の方々よろしく頼むよ! 出発だー!」


 船長の出発の合図と共に船が動き出す。ガサツは姿が見えなくなるまでずっと手を振り出発を見届けていた――

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